マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~
第2章 14歳:嫉妬
◆◇◆
親愛なるマリアンヌへ
手紙、ありがとう。最近、なかなか手紙を出せなくてごめんね。
僕も十五歳になったから、本格的に屋敷の給仕をし始めたんだ。ようやくあいつに追いついた気がして、少しだけ悔しいよ。
そういうわけで、手紙を書く時間が取れなくて。何をしているのか、は相変わらず教えられないんだ。書きたいんだけど、ダメって言われているから。
そういえば、また外出したんだってね。あいつなんて、大して役に立たないんだから、そんなに頻繁に外出するのは危ないよ。僕よりも背がずっと伸びて、護衛らしく見えるようになっても。
会いたいけど僕も忙しくて、結局実現できそうにないのが残念でならないよ、マリアンヌ。
いつになったら、会えるのかな。
リュカ・ドロレ
◆◇◆
「相変わらず、リュカと仲良くできていないのね」
手紙から目を離して、背後にいるエリアスに声をかけた。
あれから二年が経っても続いている、リュカとの文通。けれど、なかなか私の思惑通りにはいかなかった。
その証拠にリュカからの手紙には、必ずエリアスの皮肉か悪口が入っている。未だ私の傍にいるのが、気に食わないらしい。
けれど、エリアス郵便(私命名)のお陰か、嫌がらせはだいぶ前からなくなった、と小耳に挟んだ。ふむふむ、一応成果はあったようで安心した。
そんなリュカも、最近は何やら執事になるための勉強をし始めたらしい。本人は秘密にしているが、使用人たちが教えてくれた。
これでエリアスを出し抜ける。そんな考えをしているんじゃないか、とまで噂されているようだ。
念のためにもう一度言うが、リュカは私に知られていない、と思い込んでいる。けれど私の耳に入るくらいだから、周知されているのは間違いない。
そんなことで大丈夫なのかなぁ。また別の意味で心配になった。
「向こうにその意思がないんだから仕方がないだろう」
「エリアスも、でしょう」
先ほど、リュカの手紙を持ってきた時のことを思い浮かべた。相変わらず、嫌そうな顔を隠そうとしない。
エリアス郵便を始めた当初から、一向に変わらない仕草。だから、そんな名前をつけていることが知られたら、どんな顔をするか。そんなの分かり切っていたため、エリアスには秘密にしていた。
秘密というのは、こういう風にするものよ、リュカ。
「……それよりも、旦那様の所に行く時間だ。待っていらっしゃる」
私の言葉に答えるつもりがないのか、そう言いながら手を差し出してきた。
エリアスの言う通り、今日はこれからお父様と出かけることになっている。
***
私はいつものように、朝食の席で、お父様に外出の許可を求めた。
「今日はどの辺りを行くつもりだい」
お父様は時々、こうして行き先を尋ねることがある。
「ラモー川沿いにあるデデク公園です」
「デデク公園?」
「はい。この間、通りかかった時に、ピクニックをしている人たちを見かけたので、私もたまには外で昼食を取ってみたいと思いまして」
すでにニナを通して、シェフたちにお弁当を作ってもらう手筈になっていた。だからここで、お父様に反対されると非常に困ってしまう。
「行くのはマリアンヌとエリアス、あとはニナだけかい?」
「はい。その予定です」
「そこに私が加わってもいいかな」
勿論! 多めに用意するよう、シェフに頼めばいいのだから。ただ、心配事が一つだけあった。
「お忙しくはないのですか?」
「問題ない。娘と出かける時間くらい、どうにでもできるよ」
「ありがとうございます!」
本当のマリアンヌではなかったが、純粋に嬉しかった。この二年間で私は、すっかりお父様の娘になったようだ。
***
そうして決まったお父様とのお出かけ。年甲斐もなく、はしゃいじゃうくらい楽しみにしていたのに。
私はすぐに、エリアスの手を取ることができなかった。それくらい、エリアスとリュカの問題は、私の頭を悩ませていた。
この二年、二人の仲が良くなるとは、さすがに思っていない。エリアス郵便で得た成果から、少しずつ歩み寄ってほしい、と淡い期待をしていたのに、まさかここまでとは。
「マリアンヌ?」
「待って。リュカの手紙をしまうから」
封筒に入れようとした直後、私の手は空になった。
「エ、エリアス!?」
いきなり腰を掴まれ、抱き上げられたのだ。
「すぐに返事を書くわけじゃないんだから、このままでも問題ないだろう」
「散らかしっぱなしになっちゃうじゃない」
「これくらい散らかった内に入らないし、どのみちニナさんが片付けてくれるから大丈夫」
なんて言い草。ちょっとリュカを優先しただけでも嫉妬するんだから。二年前はこんなに酷くなかったのに。
「折角背が伸びて、格好良くなったのに……」
これじゃ、残念なイケメンだよ。
そっと頬に触れると、私の手に擦り寄せるように顔を動かしてきた。
「そう思うなら、俺だけを見て」
「っ!」
違う。嫉妬深くさせたのは、私だ。
恥ずかしくて、エリアスの首に腕を回した。
親愛なるマリアンヌへ
手紙、ありがとう。最近、なかなか手紙を出せなくてごめんね。
僕も十五歳になったから、本格的に屋敷の給仕をし始めたんだ。ようやくあいつに追いついた気がして、少しだけ悔しいよ。
そういうわけで、手紙を書く時間が取れなくて。何をしているのか、は相変わらず教えられないんだ。書きたいんだけど、ダメって言われているから。
そういえば、また外出したんだってね。あいつなんて、大して役に立たないんだから、そんなに頻繁に外出するのは危ないよ。僕よりも背がずっと伸びて、護衛らしく見えるようになっても。
会いたいけど僕も忙しくて、結局実現できそうにないのが残念でならないよ、マリアンヌ。
いつになったら、会えるのかな。
リュカ・ドロレ
◆◇◆
「相変わらず、リュカと仲良くできていないのね」
手紙から目を離して、背後にいるエリアスに声をかけた。
あれから二年が経っても続いている、リュカとの文通。けれど、なかなか私の思惑通りにはいかなかった。
その証拠にリュカからの手紙には、必ずエリアスの皮肉か悪口が入っている。未だ私の傍にいるのが、気に食わないらしい。
けれど、エリアス郵便(私命名)のお陰か、嫌がらせはだいぶ前からなくなった、と小耳に挟んだ。ふむふむ、一応成果はあったようで安心した。
そんなリュカも、最近は何やら執事になるための勉強をし始めたらしい。本人は秘密にしているが、使用人たちが教えてくれた。
これでエリアスを出し抜ける。そんな考えをしているんじゃないか、とまで噂されているようだ。
念のためにもう一度言うが、リュカは私に知られていない、と思い込んでいる。けれど私の耳に入るくらいだから、周知されているのは間違いない。
そんなことで大丈夫なのかなぁ。また別の意味で心配になった。
「向こうにその意思がないんだから仕方がないだろう」
「エリアスも、でしょう」
先ほど、リュカの手紙を持ってきた時のことを思い浮かべた。相変わらず、嫌そうな顔を隠そうとしない。
エリアス郵便を始めた当初から、一向に変わらない仕草。だから、そんな名前をつけていることが知られたら、どんな顔をするか。そんなの分かり切っていたため、エリアスには秘密にしていた。
秘密というのは、こういう風にするものよ、リュカ。
「……それよりも、旦那様の所に行く時間だ。待っていらっしゃる」
私の言葉に答えるつもりがないのか、そう言いながら手を差し出してきた。
エリアスの言う通り、今日はこれからお父様と出かけることになっている。
***
私はいつものように、朝食の席で、お父様に外出の許可を求めた。
「今日はどの辺りを行くつもりだい」
お父様は時々、こうして行き先を尋ねることがある。
「ラモー川沿いにあるデデク公園です」
「デデク公園?」
「はい。この間、通りかかった時に、ピクニックをしている人たちを見かけたので、私もたまには外で昼食を取ってみたいと思いまして」
すでにニナを通して、シェフたちにお弁当を作ってもらう手筈になっていた。だからここで、お父様に反対されると非常に困ってしまう。
「行くのはマリアンヌとエリアス、あとはニナだけかい?」
「はい。その予定です」
「そこに私が加わってもいいかな」
勿論! 多めに用意するよう、シェフに頼めばいいのだから。ただ、心配事が一つだけあった。
「お忙しくはないのですか?」
「問題ない。娘と出かける時間くらい、どうにでもできるよ」
「ありがとうございます!」
本当のマリアンヌではなかったが、純粋に嬉しかった。この二年間で私は、すっかりお父様の娘になったようだ。
***
そうして決まったお父様とのお出かけ。年甲斐もなく、はしゃいじゃうくらい楽しみにしていたのに。
私はすぐに、エリアスの手を取ることができなかった。それくらい、エリアスとリュカの問題は、私の頭を悩ませていた。
この二年、二人の仲が良くなるとは、さすがに思っていない。エリアス郵便で得た成果から、少しずつ歩み寄ってほしい、と淡い期待をしていたのに、まさかここまでとは。
「マリアンヌ?」
「待って。リュカの手紙をしまうから」
封筒に入れようとした直後、私の手は空になった。
「エ、エリアス!?」
いきなり腰を掴まれ、抱き上げられたのだ。
「すぐに返事を書くわけじゃないんだから、このままでも問題ないだろう」
「散らかしっぱなしになっちゃうじゃない」
「これくらい散らかった内に入らないし、どのみちニナさんが片付けてくれるから大丈夫」
なんて言い草。ちょっとリュカを優先しただけでも嫉妬するんだから。二年前はこんなに酷くなかったのに。
「折角背が伸びて、格好良くなったのに……」
これじゃ、残念なイケメンだよ。
そっと頬に触れると、私の手に擦り寄せるように顔を動かしてきた。
「そう思うなら、俺だけを見て」
「っ!」
違う。嫉妬深くさせたのは、私だ。
恥ずかしくて、エリアスの首に腕を回した。