マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~
それ以降、私は教会に通うことを躊躇わなかった。
エリアスには相変わらず会えなかったが、行くと必ずマリーゴールドが置いてあったから。
そんなある日のこと。
いつものように、礼拝堂でお祈りした後、マリーゴールドを取ると、なぜか数メートル先にも置いてあった。それを取ると、また数メートル先にも同じ物が。
明らかに私を誘導している。私はそれをエリアスの仕業だと思った。
喧嘩したわけじゃないけど、そろそろ普通に会おうと言う意図があるのかもしれない。だから何も疑わずに、私はマリーゴールドを拾っていった。思い違いだとも知らずに。
そうして辿り着いたのは、小屋の前だった。私は何の疑いもなく、中を窺う。
「エリアス? いるの?」
声をかけた途端、期待していた出来事は起こらなかった。代わりに背中に強い痛みを感じる。
「うっ」
そのまま前に倒れ込む。
痛い。血が出たのかと思うくらい、背中がじんじんする。
それと同時に男性の、それも大人の声が聞こえた。
「し、死んでいないよな」
「このくらいじゃ、死なねぇよ。まぁ、向こうさんはそれでもいいらしいぜ」
あぁ、やっぱり私はエリアスに嫌われていたのね。声は見知らぬ男たちのものだったが、きっとエリアスが手配したのだと分かった。
あのマリーゴールドがその証拠だ。
男たちに襲われたことよりも、私はその事実がとても悲しかった。マリーゴールドの花が、会わなくても通じ合っているように感じていたのに。でも、それは私の思い違いだったのね。
エリアス……ごめんなさい……。貴方を利用しようとしたから、罰が当たったんだわ。
意識を失うまで、私は謝り続けた。
***
「マリアンヌ! マリアンヌ!」
私を呼ぶ声に目を開けると、なぜかエリアスがいた。茶髪に緑色の瞳。確かにエリアスだ。
でも、何で? 私をごろつきに売ったんじゃないの? 貴族令嬢の、特に子供なんて、格好の的じゃない。
「良かった。気がついて」
どうして、そんな優しい声を出すの?
「マリアンヌ!? どこか怪我でもしたのか?」
怪我? 背中が痛いよ。でも、そんなことより、なんでエリアスがいるの?
「ごめん。助けるのが遅くなって。だから……」
急にエリアスが私を抱き締めた。
「だから、泣かないでくれよ」
そこで私は初めて気がついた。エリアスの服を濡らしてしまったから。
「だって、だって、エリアスが、エリアスが」
「うん。疑われて当然だよな。会うのが怖いくせに、こっそり花なんか置くようなマネして」
「会うのが怖い? 嫌いになったんじゃなくて?」
「嫌いになっていたら、花なんて置かないよ」
「なら、好き?」
私の言葉に、エリアスの体が固まった。そこで私は気がついた。
ただ単に、嫌いの反対を聞いただけだったんだけど。おかしな質問になっちゃったー!
「えっと、あの、そうじゃなくて。……嫌いじゃないってこと?」
言い直した時にはもう手遅れだった。体を引き離され、真剣な眼差しを向けられた。
「本当は貴族令嬢のマリアンヌに、こんな思いは抱いちゃいけないんだろうけど、好きなんだ。俺の考えを初めて肯定してくれたから」
「っ!」
私は驚いて顔を下げた。まだ乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』の舞台に立っているわけじゃないのに、告白を受けるとは思ってもいなかったからだ。
さすがはヒロイン補正。大人でも子供でも関係ないのね。
そんなことを思わないと、この沈黙に耐えられなかった。
「ごめん。急にこんなことを言われたら、困るよね。だけど、これだけは信じてほしい。今回のことは、俺が仕組んだことじゃないってこと。マリアンヌを危険な目になんて、合わせたりしないってことを」
「……なら、誰が?」
絞り出すように私は聞いた。
「君の叔父さん」
「え?」
叔父さんって、お父様が亡くなった後、カルヴェ伯爵家を乗っ取る、あの男?
確かに、私に危害を加える可能性がある人だけど。
「どうして?」
「そこまでは、部外者の俺には分からないよ。ただカルヴェ伯爵は、すぐにピンと来たようだった」
「お父様に連絡したの?」
「うん。君が帰る頃になっても、教会の外に馬車が止まっていたから、司祭様に言ったんだ。そしたら念のためって伯爵家に連絡してくれて」
すると、お父様はすぐに叔父様のところに行ったらしい。
「その間、俺は孤児院の皆と、君を探したんだ」
「危ないわ。私を気絶させた人たちがいるのよ」
敢えて攻撃という言葉は使わなかったが、エリアスの顔が険しくなった。
「俺のせいで、君は危険な目に遭ったんだよ! この小屋の前に、マリーゴールドが置いてあるのを見て、俺は!」
エリアスはハッとなり、声のトーンを下げた。
「だから、疑ったんだろう。それで俺を見た途端、泣き出したんじゃないか」
「ご、ごめんなさい」
違うわ、とはさすがに言えなかった。ここまで言い当てられて、否定の言葉を口にするほど、愚かでもない。
「とりあえず教会に戻ろう。カルヴェ伯爵もいるから」
「うん」
返事をすると、私の体が浮いた。エリアスに抱き上げられたのだ。
「エリアス!?」
「大丈夫。孤児院の子たちで慣れているから」
「そうじゃなくて~」
「ダメだよ。君は貴族令嬢なんだから」
それもまた、おかしな理由だよ、エリアス。
***
教会に着くと、本当にお父様がいた。
「マリアンヌ!」
エリアスの手から、お父様の手に渡り、私はホッとした。お父様も無事なことに安堵したのだ。
叔父様が私を狙ったのなら、おそらくお父様の死因に関わっている可能性が高い。
確かに、お父様の死で、一番得をするのは叔父様だから。これからは気をつけないと。
「ありがとう。エリアス君」
「いいえ。お嬢様が無事で良かったです」
お、お嬢様!?
「君のお陰で、マリアンヌは無事だったんだ。何かお礼をしたいんだが、何が良いかな」
「俺をお嬢様の護衛に雇ってくれませんか?」
「え?」
驚いた声を出したのは私だった。
いやいや、ダメでしょう。私の護衛にしたら、将来侯爵になれないんだよ。
お父様、ダメだって言って!
「うん。いいよ。君はなかなか勘もいいし、頭もいい。何より、マリアンヌを大事に思ってくれているからね」
「お、お父様~」
「なんだい。マリアンヌは反対かい」
私はお父様とエリアスの顔を交互に見た。
「いいえ」
とてもじゃないが、反対できる状況じゃなかった。
「じゃ、決まりだね」
確かに味方がほしかったんだけど、こんなのは想定外だよ~。
そんなこんなで、エリアスは侯爵ではなく、私の護衛になってしまった。
エリアスには相変わらず会えなかったが、行くと必ずマリーゴールドが置いてあったから。
そんなある日のこと。
いつものように、礼拝堂でお祈りした後、マリーゴールドを取ると、なぜか数メートル先にも置いてあった。それを取ると、また数メートル先にも同じ物が。
明らかに私を誘導している。私はそれをエリアスの仕業だと思った。
喧嘩したわけじゃないけど、そろそろ普通に会おうと言う意図があるのかもしれない。だから何も疑わずに、私はマリーゴールドを拾っていった。思い違いだとも知らずに。
そうして辿り着いたのは、小屋の前だった。私は何の疑いもなく、中を窺う。
「エリアス? いるの?」
声をかけた途端、期待していた出来事は起こらなかった。代わりに背中に強い痛みを感じる。
「うっ」
そのまま前に倒れ込む。
痛い。血が出たのかと思うくらい、背中がじんじんする。
それと同時に男性の、それも大人の声が聞こえた。
「し、死んでいないよな」
「このくらいじゃ、死なねぇよ。まぁ、向こうさんはそれでもいいらしいぜ」
あぁ、やっぱり私はエリアスに嫌われていたのね。声は見知らぬ男たちのものだったが、きっとエリアスが手配したのだと分かった。
あのマリーゴールドがその証拠だ。
男たちに襲われたことよりも、私はその事実がとても悲しかった。マリーゴールドの花が、会わなくても通じ合っているように感じていたのに。でも、それは私の思い違いだったのね。
エリアス……ごめんなさい……。貴方を利用しようとしたから、罰が当たったんだわ。
意識を失うまで、私は謝り続けた。
***
「マリアンヌ! マリアンヌ!」
私を呼ぶ声に目を開けると、なぜかエリアスがいた。茶髪に緑色の瞳。確かにエリアスだ。
でも、何で? 私をごろつきに売ったんじゃないの? 貴族令嬢の、特に子供なんて、格好の的じゃない。
「良かった。気がついて」
どうして、そんな優しい声を出すの?
「マリアンヌ!? どこか怪我でもしたのか?」
怪我? 背中が痛いよ。でも、そんなことより、なんでエリアスがいるの?
「ごめん。助けるのが遅くなって。だから……」
急にエリアスが私を抱き締めた。
「だから、泣かないでくれよ」
そこで私は初めて気がついた。エリアスの服を濡らしてしまったから。
「だって、だって、エリアスが、エリアスが」
「うん。疑われて当然だよな。会うのが怖いくせに、こっそり花なんか置くようなマネして」
「会うのが怖い? 嫌いになったんじゃなくて?」
「嫌いになっていたら、花なんて置かないよ」
「なら、好き?」
私の言葉に、エリアスの体が固まった。そこで私は気がついた。
ただ単に、嫌いの反対を聞いただけだったんだけど。おかしな質問になっちゃったー!
「えっと、あの、そうじゃなくて。……嫌いじゃないってこと?」
言い直した時にはもう手遅れだった。体を引き離され、真剣な眼差しを向けられた。
「本当は貴族令嬢のマリアンヌに、こんな思いは抱いちゃいけないんだろうけど、好きなんだ。俺の考えを初めて肯定してくれたから」
「っ!」
私は驚いて顔を下げた。まだ乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』の舞台に立っているわけじゃないのに、告白を受けるとは思ってもいなかったからだ。
さすがはヒロイン補正。大人でも子供でも関係ないのね。
そんなことを思わないと、この沈黙に耐えられなかった。
「ごめん。急にこんなことを言われたら、困るよね。だけど、これだけは信じてほしい。今回のことは、俺が仕組んだことじゃないってこと。マリアンヌを危険な目になんて、合わせたりしないってことを」
「……なら、誰が?」
絞り出すように私は聞いた。
「君の叔父さん」
「え?」
叔父さんって、お父様が亡くなった後、カルヴェ伯爵家を乗っ取る、あの男?
確かに、私に危害を加える可能性がある人だけど。
「どうして?」
「そこまでは、部外者の俺には分からないよ。ただカルヴェ伯爵は、すぐにピンと来たようだった」
「お父様に連絡したの?」
「うん。君が帰る頃になっても、教会の外に馬車が止まっていたから、司祭様に言ったんだ。そしたら念のためって伯爵家に連絡してくれて」
すると、お父様はすぐに叔父様のところに行ったらしい。
「その間、俺は孤児院の皆と、君を探したんだ」
「危ないわ。私を気絶させた人たちがいるのよ」
敢えて攻撃という言葉は使わなかったが、エリアスの顔が険しくなった。
「俺のせいで、君は危険な目に遭ったんだよ! この小屋の前に、マリーゴールドが置いてあるのを見て、俺は!」
エリアスはハッとなり、声のトーンを下げた。
「だから、疑ったんだろう。それで俺を見た途端、泣き出したんじゃないか」
「ご、ごめんなさい」
違うわ、とはさすがに言えなかった。ここまで言い当てられて、否定の言葉を口にするほど、愚かでもない。
「とりあえず教会に戻ろう。カルヴェ伯爵もいるから」
「うん」
返事をすると、私の体が浮いた。エリアスに抱き上げられたのだ。
「エリアス!?」
「大丈夫。孤児院の子たちで慣れているから」
「そうじゃなくて~」
「ダメだよ。君は貴族令嬢なんだから」
それもまた、おかしな理由だよ、エリアス。
***
教会に着くと、本当にお父様がいた。
「マリアンヌ!」
エリアスの手から、お父様の手に渡り、私はホッとした。お父様も無事なことに安堵したのだ。
叔父様が私を狙ったのなら、おそらくお父様の死因に関わっている可能性が高い。
確かに、お父様の死で、一番得をするのは叔父様だから。これからは気をつけないと。
「ありがとう。エリアス君」
「いいえ。お嬢様が無事で良かったです」
お、お嬢様!?
「君のお陰で、マリアンヌは無事だったんだ。何かお礼をしたいんだが、何が良いかな」
「俺をお嬢様の護衛に雇ってくれませんか?」
「え?」
驚いた声を出したのは私だった。
いやいや、ダメでしょう。私の護衛にしたら、将来侯爵になれないんだよ。
お父様、ダメだって言って!
「うん。いいよ。君はなかなか勘もいいし、頭もいい。何より、マリアンヌを大事に思ってくれているからね」
「お、お父様~」
「なんだい。マリアンヌは反対かい」
私はお父様とエリアスの顔を交互に見た。
「いいえ」
とてもじゃないが、反対できる状況じゃなかった。
「じゃ、決まりだね」
確かに味方がほしかったんだけど、こんなのは想定外だよ~。
そんなこんなで、エリアスは侯爵ではなく、私の護衛になってしまった。