マリーゴールドで繋がる恋~乙女ゲームのヒロインに転生したので、早めに助けていただいてもいいですか?~
乙女ゲーム『アルメリアに囲まれて』のオレリアは断罪後、死刑、追放、平民の三種類のエンディングを迎えている。
詳細な内訳は、王子、侯爵ルートは死刑。従兄弟は追放。商人は平民。使用人ルートは駆け落ちなので、貴族のままである。
オレリアはゲーム内で、修道院へ行っていないし、その後の描写もされていなかった。
だから私は、エリアスの提案をすんなり受けたのだ。
「改心したっていうことは、修道院での生活は辛いものだったのかな」
「公的な罪が軽すぎたんだから、これで帳尻が合うだろう」
「そうだけど……」
ちょっと言い方がキツいんじゃない、と出かかった言葉を飲み込んだ。
実は二年前のことで、エリアスから何かとお小言を言われていたからだ。
多分、お父様との養子縁組の手続きが、正式に行われる旨を聞いたからだろう。確固たる自信がついたのかもしれない。
私の十七歳の誕生日が、二カ月後に控えていた。その時にエリアスが養子になることを発表して、手続きを開始するのだとお父様から聞かされた。
それが無事に終われば、次は婚約式の準備だ。
バタバタする日程を控える中、この領地への旅行は唯一、のんびりできる時間だった。
「お嬢様、見えてきましたよ。あちらが、オレリア様がいらっしゃるハイルレラ修道院です」
隣に座っていたニナが、身を乗り出しながら教えてくれた。そう、馬車の中は私とエリアスだけじゃない。ニナもいた。
多分、これもエリアスが不機嫌な理由の一つなのだろう。
一応、少人数での移動なのだから仕方がない、とは理解してくれているみたいだけど。
そもそもこの旅行はエリアスのために、私が考えたものだった。
行き先が変更になってしまったのは残念だけど、目的地は同じ領地内。
そこで私は、エリアスにゆっくりと養生してもらいたかったのだ。邸宅では羽を伸ばせないと思ったから。
エリアスの背中の傷は、万年筆によるものだから小さくて、すぐに治るものだろうと安易に考えていた。治療も早めにしたから、余計にそう思ったのかもしれない。
けれど毒が含まれていたせいか、治りが悪く。時折、熱を出すこともあった。
さらに傷口が紫色に変色したことも、却って私の不安を煽った。
コルド先生からは、普段通り過ごして良いというお墨付きをもらったけど、完治したわけじゃない。
勿論、オレリアにも会うことや、気分転換がしたかった、という気持ちもあって進言したことだけど、それが一番の理由だった。
だから一緒に行くことを、お父様も許してくれたんだと思う。
「着いたみたいだな」
馬車が止まり、当然のように先に降りるエリアス。
うん。それがマナーというのは分かるんだけど。複雑な気持ちになった。
それが表情に出ていたのだろう。さっきの不満はどこへ行ったのか、エリアスは優しく微笑んだ。
大丈夫だというように、右手を差し出す。
多分、オレリアに会うのが不安だと思われたのかもしれない。
もう、体を大事にしてほしい相手にエスコートされるなんて。とはいえ、この手を取らなかったら、怒るのは目に見えている。
「マリアンヌ?」
「ううん。何でもない」
エリアスの右手に、私は左手を乗せた。
「ここに、オレリアがいるのね」
馬車を降りてすぐ、目の前にある建物を見上げた。そう、ハイルレラ修道院の建物を。
***
修道院と聞いて、私は勝手に教会と似た建物を連想していた。しかし、ハイルレラ修道院を見て、その考えは間違っていたことに気づかされた。
首都で見た教会は純粋、清潔を表す白を基調としているが、ここの修道院は温もり、安らぎを表す茶色い壁に覆われた建物だった。
屋根も、癒しや穏やかさを表す緑色。
ここで生活するシスターや修道女、訪れる者たちへの配慮が感じられる建物だった。
さらに私は、その大きさにも圧倒された。
この世界で見た教会は首都にある、かつてエリアスがいた孤児院を経営していた所しか知らない。だから、規模も似たり寄ったりだと想像していたのだ。
そもそも大人と子供を比較する自体、間違っている。転生前の世界を思い出せば、すぐに分かったはずだ。
そう、幼稚園や保育園が、大学と同じ規模だろうか。全然違う。それなのに私ったら……。
「ようこそ、お出でくださいました」
一人自問自答していると、修道服姿の老齢な女性に出迎えられた。
「ハイルレラ修道院の院長をさせていただいている、デボラと申します」
「マリアンヌ・カルヴェよ。こちらはエリアス。今日は突然の申し出を受けてくれてありがとう」
「いいえ。このような辺境に来ていただけるだけでも、私共は感謝しております。この土地が平和なのは、カルヴェ伯爵様のお力によるものですから」
リップサービスとはいえ、お父様が領民に慕われているのは嬉しい。
二年前、領地には行ったけど、領民とこのように会話をする機会がなかったから、余計に。
「すぐにオレリアを呼びますが、その間、礼拝堂でお待ちいただけますか?」
「礼拝堂で? えぇ。是非、そうさせてもらいたいわ」
「分かりました。ご案内いたします」
院長は近くにいたシスターに目配せをした後、私たちに会釈をしてから歩き出した。
詳細な内訳は、王子、侯爵ルートは死刑。従兄弟は追放。商人は平民。使用人ルートは駆け落ちなので、貴族のままである。
オレリアはゲーム内で、修道院へ行っていないし、その後の描写もされていなかった。
だから私は、エリアスの提案をすんなり受けたのだ。
「改心したっていうことは、修道院での生活は辛いものだったのかな」
「公的な罪が軽すぎたんだから、これで帳尻が合うだろう」
「そうだけど……」
ちょっと言い方がキツいんじゃない、と出かかった言葉を飲み込んだ。
実は二年前のことで、エリアスから何かとお小言を言われていたからだ。
多分、お父様との養子縁組の手続きが、正式に行われる旨を聞いたからだろう。確固たる自信がついたのかもしれない。
私の十七歳の誕生日が、二カ月後に控えていた。その時にエリアスが養子になることを発表して、手続きを開始するのだとお父様から聞かされた。
それが無事に終われば、次は婚約式の準備だ。
バタバタする日程を控える中、この領地への旅行は唯一、のんびりできる時間だった。
「お嬢様、見えてきましたよ。あちらが、オレリア様がいらっしゃるハイルレラ修道院です」
隣に座っていたニナが、身を乗り出しながら教えてくれた。そう、馬車の中は私とエリアスだけじゃない。ニナもいた。
多分、これもエリアスが不機嫌な理由の一つなのだろう。
一応、少人数での移動なのだから仕方がない、とは理解してくれているみたいだけど。
そもそもこの旅行はエリアスのために、私が考えたものだった。
行き先が変更になってしまったのは残念だけど、目的地は同じ領地内。
そこで私は、エリアスにゆっくりと養生してもらいたかったのだ。邸宅では羽を伸ばせないと思ったから。
エリアスの背中の傷は、万年筆によるものだから小さくて、すぐに治るものだろうと安易に考えていた。治療も早めにしたから、余計にそう思ったのかもしれない。
けれど毒が含まれていたせいか、治りが悪く。時折、熱を出すこともあった。
さらに傷口が紫色に変色したことも、却って私の不安を煽った。
コルド先生からは、普段通り過ごして良いというお墨付きをもらったけど、完治したわけじゃない。
勿論、オレリアにも会うことや、気分転換がしたかった、という気持ちもあって進言したことだけど、それが一番の理由だった。
だから一緒に行くことを、お父様も許してくれたんだと思う。
「着いたみたいだな」
馬車が止まり、当然のように先に降りるエリアス。
うん。それがマナーというのは分かるんだけど。複雑な気持ちになった。
それが表情に出ていたのだろう。さっきの不満はどこへ行ったのか、エリアスは優しく微笑んだ。
大丈夫だというように、右手を差し出す。
多分、オレリアに会うのが不安だと思われたのかもしれない。
もう、体を大事にしてほしい相手にエスコートされるなんて。とはいえ、この手を取らなかったら、怒るのは目に見えている。
「マリアンヌ?」
「ううん。何でもない」
エリアスの右手に、私は左手を乗せた。
「ここに、オレリアがいるのね」
馬車を降りてすぐ、目の前にある建物を見上げた。そう、ハイルレラ修道院の建物を。
***
修道院と聞いて、私は勝手に教会と似た建物を連想していた。しかし、ハイルレラ修道院を見て、その考えは間違っていたことに気づかされた。
首都で見た教会は純粋、清潔を表す白を基調としているが、ここの修道院は温もり、安らぎを表す茶色い壁に覆われた建物だった。
屋根も、癒しや穏やかさを表す緑色。
ここで生活するシスターや修道女、訪れる者たちへの配慮が感じられる建物だった。
さらに私は、その大きさにも圧倒された。
この世界で見た教会は首都にある、かつてエリアスがいた孤児院を経営していた所しか知らない。だから、規模も似たり寄ったりだと想像していたのだ。
そもそも大人と子供を比較する自体、間違っている。転生前の世界を思い出せば、すぐに分かったはずだ。
そう、幼稚園や保育園が、大学と同じ規模だろうか。全然違う。それなのに私ったら……。
「ようこそ、お出でくださいました」
一人自問自答していると、修道服姿の老齢な女性に出迎えられた。
「ハイルレラ修道院の院長をさせていただいている、デボラと申します」
「マリアンヌ・カルヴェよ。こちらはエリアス。今日は突然の申し出を受けてくれてありがとう」
「いいえ。このような辺境に来ていただけるだけでも、私共は感謝しております。この土地が平和なのは、カルヴェ伯爵様のお力によるものですから」
リップサービスとはいえ、お父様が領民に慕われているのは嬉しい。
二年前、領地には行ったけど、領民とこのように会話をする機会がなかったから、余計に。
「すぐにオレリアを呼びますが、その間、礼拝堂でお待ちいただけますか?」
「礼拝堂で? えぇ。是非、そうさせてもらいたいわ」
「分かりました。ご案内いたします」
院長は近くにいたシスターに目配せをした後、私たちに会釈をしてから歩き出した。