知人の紹介で
「……でも、初めてだから……皆の前でファーストキス……」

 彼女を大事にしなければと思うあまり、ずっと清い交際を続けてきたが、そこまで気が回っていなかった。確かに人生で初めてのキスを大勢の人に見られながらだなんて、それはかなりハードルが高いだろう。ちゃんと考慮してやるべきだった。

「……ごめん。そこまでは考えてなかった。ごめんね?」
「ううん。優作さんが大事にしてくれるの嬉しかったから、いいんです」

 少し困った顔で、それでも笑ってそう言ってくれる陽菜が本当に愛しい。彼女に触れるのは皆に認めてもらってからだと思っていたが、陽菜のことを想うならきっと正解はそれではない。

「陽菜ちゃん。もう誤差だし、ちょっとフライングしちゃおうか」
「え?」

 陽菜の肩にそっと触れ、優しく陽菜の唇へと口づけた。ほんの一瞬触れ合わせるだけのキスだが、ずっとずっと我慢していたのもあって、優作は強烈な喜びに包まれていった。

「あ、え、今……え?」
「ふふ。これで陽菜ちゃんのファーストキスは二人だけのもの。ね?」
「……はい」

 照れている陽菜がたまらなくかわいい。すぐにでももう一度口づけたくなってしまう。やはり今日まで我慢していて正解だった。本当に今にも暴走してしまいそうだ。

「あー、ダメだな。やっぱり一度したら何度でもしたくなる。ごめん、今日の夜は止まらないかも」
「……今、そんなこと言わないでくださいっ。皆の前に顔出せなくなります」

 恥ずかしそうにしている陽菜はさらにかわいく見える。こんなかわいい陽菜は自分以外の人には見せられない。これを見ていいのは自分だけだ。

「ふふ。ごめん、陽菜ちゃん。ちょっと二人とも深呼吸しようか」

 二人してすーはーと深呼吸をしていたら、段々おかしくなってきて、最後は二人して声を出して笑っていた。おかげで式には二人とも笑顔で臨むことができた。



 そして、結婚した二人はそれまで我慢していた分を取り戻すかのように甘い日々を送っている。特に優作のほうが陽菜にメロメロで、毎日毎日彼女を溺愛している。

 今でも時折罪悪感が湧くことがあるが、陽菜が優作にいっぱいの愛を届けてくれるから、優作がその手を離すことは決してない。ずっと手を取り合って二人は生きている。
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