敏腕教育係は引きこもり御曹司を救えるか?
時間にして10秒くらいだろうか。阿久津が学を抱き締めた姿勢のまま、沈黙が続いた。場の空気に耐えられなくなったのか、抱き締められたまま学が口を開く。
「阿久津さん、どうしたんですか急に」
「ごめん、無理に触らないって言ったのに。でも、学くんがあまりにも……寂しそうで」
「え? 僕、寂しそうでしたか」
「うん。学くん、家族のことは色々諦めているように言ってるけど、まだ、好きだよね。仲良くしたいって思ってるよね」
当たっていたのか、学の体がビクリと跳ねるのが分かった。
「正直言うとね、私は学くんの話を聞いていて、とても特殊な家庭環境だったなと思う。学くん、大変だっただろうなって。これじゃあ居場所無いよって。でもね、これだけは信じてほしい。
君の居場所は絶対あるから。1人じゃないからね。
私は君を絶対見捨てないし、君の世界をもっと広げて、居場所を作るお手伝いをしたい。
今まで、1人でよく頑張ったね。
学くんは、もっともっといろんな人と繋がれる人だし、いろんな人に好きになってもらえる人だよ。
だから、一緒に……一緒に一歩一歩歩いていこう」
「……阿久津さん」
学の手が背中に回ってくるのが分かり、少しドキリとした。でも、その手つきはまるで大人にすがる子どものように必死で。そして彼は声を上げて、何かが爆発したようにわんわん泣いた。阿久津も溢れる涙を抑えることが出来ず、2人で抱き合いながらしばらく泣いた。
◇◇◇
「お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
ティッシュで鼻をかみながら学が恥ずかしそうに言った。
あれから、どれくらい2人で泣いていただろうか。落ち着いて我に返り離れた頃には、2人とも目も鼻も真っ赤だった。
「いやこちらこそ。また無断でハグなんてしてしまってごめんなさい」
阿久津が頭を下げると、学が慌てて否定する。
「いや僕は、その、セクハラなんて思いません! 阿久津さんになら」
「え? 誰だろうとセクハラはセクハラでは」
「いやその……あれです、僕も抱きつき返してしまいましたし、お互い様です! 申し訳ございませんでした」
何故か学が謝る始末である。
「でも、ありがとうございました。今まで頑張ったねなんて、言われたことなかったです。僕の中では、引きこもって怠けていただけだと思っていたから」
「そんなことない。孤独に耐えて、性格もほとんどひねくれもせず、凄いよ」
阿久津が言うと、学はしみじみと目を細めながら何故かこちらを見つめてくる。
「ん、どうかした?」
「阿久津さんって本当に僕のイメージ通りの人です」
「えっ、どんなイメージなの私」
「言葉で表すのは難しいというか……やっぱり、僕が阿久津さんをモデルに描いた絵を見てほしいです」
ああそうだった。そんな話もあった。ついに、例のバズった絵を見せていただかことになるのか。
「せっかくだからネット上にアップしたデータではなくて、僕の部屋にある原画を見てほしいなと思いまして」
「わ、分かった」
忘れかけていた緊張が蘇る。コメントしづらい絵だったらどうしよう。やたらと現代美術寄りとか、なんかエロい感じとか……。いや、無いと思うが。
「どうぞ」
学の部屋に通され、固唾を飲みながら阿久津は足を踏み入れた。
「阿久津さん、どうしたんですか急に」
「ごめん、無理に触らないって言ったのに。でも、学くんがあまりにも……寂しそうで」
「え? 僕、寂しそうでしたか」
「うん。学くん、家族のことは色々諦めているように言ってるけど、まだ、好きだよね。仲良くしたいって思ってるよね」
当たっていたのか、学の体がビクリと跳ねるのが分かった。
「正直言うとね、私は学くんの話を聞いていて、とても特殊な家庭環境だったなと思う。学くん、大変だっただろうなって。これじゃあ居場所無いよって。でもね、これだけは信じてほしい。
君の居場所は絶対あるから。1人じゃないからね。
私は君を絶対見捨てないし、君の世界をもっと広げて、居場所を作るお手伝いをしたい。
今まで、1人でよく頑張ったね。
学くんは、もっともっといろんな人と繋がれる人だし、いろんな人に好きになってもらえる人だよ。
だから、一緒に……一緒に一歩一歩歩いていこう」
「……阿久津さん」
学の手が背中に回ってくるのが分かり、少しドキリとした。でも、その手つきはまるで大人にすがる子どものように必死で。そして彼は声を上げて、何かが爆発したようにわんわん泣いた。阿久津も溢れる涙を抑えることが出来ず、2人で抱き合いながらしばらく泣いた。
◇◇◇
「お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
ティッシュで鼻をかみながら学が恥ずかしそうに言った。
あれから、どれくらい2人で泣いていただろうか。落ち着いて我に返り離れた頃には、2人とも目も鼻も真っ赤だった。
「いやこちらこそ。また無断でハグなんてしてしまってごめんなさい」
阿久津が頭を下げると、学が慌てて否定する。
「いや僕は、その、セクハラなんて思いません! 阿久津さんになら」
「え? 誰だろうとセクハラはセクハラでは」
「いやその……あれです、僕も抱きつき返してしまいましたし、お互い様です! 申し訳ございませんでした」
何故か学が謝る始末である。
「でも、ありがとうございました。今まで頑張ったねなんて、言われたことなかったです。僕の中では、引きこもって怠けていただけだと思っていたから」
「そんなことない。孤独に耐えて、性格もほとんどひねくれもせず、凄いよ」
阿久津が言うと、学はしみじみと目を細めながら何故かこちらを見つめてくる。
「ん、どうかした?」
「阿久津さんって本当に僕のイメージ通りの人です」
「えっ、どんなイメージなの私」
「言葉で表すのは難しいというか……やっぱり、僕が阿久津さんをモデルに描いた絵を見てほしいです」
ああそうだった。そんな話もあった。ついに、例のバズった絵を見せていただかことになるのか。
「せっかくだからネット上にアップしたデータではなくて、僕の部屋にある原画を見てほしいなと思いまして」
「わ、分かった」
忘れかけていた緊張が蘇る。コメントしづらい絵だったらどうしよう。やたらと現代美術寄りとか、なんかエロい感じとか……。いや、無いと思うが。
「どうぞ」
学の部屋に通され、固唾を飲みながら阿久津は足を踏み入れた。