敏腕教育係は引きこもり御曹司を救えるか?
その日の仕事が終わり、阿久津が47階の玄関を開けると、とても芳醇な肉の香りがした。
「あ、阿久津さん、おかえりなさい」
エプロンを付けた学がキッチンから走って出迎えてくれる。髪は今日、自分で良い感じにセットできている。このキラキラした学のことはようやく最近阿久津も見慣れてきた。モジャモジャ頭の時も、あれはあれで大きなムク犬のようで可愛かった、とは本人には言えない。
「ただいま。なんだかすごく良い匂いがするね」
「実は、今日は1人で少し遠くのスーパーまで行って大きな牛の塊肉を買ってきたんです。それで今日、ルーも手作りしてビーフシチューを作ってみてます」
「ええ、凄いね! 昼間に、遠くまで買い物行ったんだ」
「はい。ネットスーパーだと手に入らないような、安くて良いお肉でした。美味しく煮込めているといいんですが」
学は嬉しそうに照れ笑いした。いつの間にやら事前に外出出来るようになって、しかもビーフシチューとは、いつの間にそんな上級者向けの料理を作れるようになったのだろうか。学の成長の速さには毎日のように驚かされる。
◇◇◇
学のビーフシチューは大変美味だった。ワインでじっくり煮込んだというシチューは、深い贅沢な味わいがした。彼の料理の腕はとっくに阿久津を凌駕していると思う。
2人で後片付けをしている最中に、阿久津は例の件を切り出した。
「学くん、ちょっとお話が」
「はい、何か?」
少し肩をビクつかせて、学がこちらを向く。
「実はお父さんから、学くんに三友商事で働いてほしいという要望があったんだよね」
「え、そうなんですか」
もっと仰天するかと思ったが、学は少し声を上げただけで思いの外冷静だった。
「先日のやりとりを見るに、父さんはそれくらいのことをしてくると思ってました」
なるほど、父親の行動は読めていたわけか。
「私は、正直言うと学くんの意志も聞かずにいきなり商社でフルタイムで働かせるのはどうかと思ったんだ。しかも、来月からだからかなり急だし」
阿久津は、学が断りやすいようにつらつらと社長の提案の無茶苦茶さについて語った。だが、学からの返答は思わぬものあった。
「僕、働きたいです。三友商事で」
「あ、阿久津さん、おかえりなさい」
エプロンを付けた学がキッチンから走って出迎えてくれる。髪は今日、自分で良い感じにセットできている。このキラキラした学のことはようやく最近阿久津も見慣れてきた。モジャモジャ頭の時も、あれはあれで大きなムク犬のようで可愛かった、とは本人には言えない。
「ただいま。なんだかすごく良い匂いがするね」
「実は、今日は1人で少し遠くのスーパーまで行って大きな牛の塊肉を買ってきたんです。それで今日、ルーも手作りしてビーフシチューを作ってみてます」
「ええ、凄いね! 昼間に、遠くまで買い物行ったんだ」
「はい。ネットスーパーだと手に入らないような、安くて良いお肉でした。美味しく煮込めているといいんですが」
学は嬉しそうに照れ笑いした。いつの間にやら事前に外出出来るようになって、しかもビーフシチューとは、いつの間にそんな上級者向けの料理を作れるようになったのだろうか。学の成長の速さには毎日のように驚かされる。
◇◇◇
学のビーフシチューは大変美味だった。ワインでじっくり煮込んだというシチューは、深い贅沢な味わいがした。彼の料理の腕はとっくに阿久津を凌駕していると思う。
2人で後片付けをしている最中に、阿久津は例の件を切り出した。
「学くん、ちょっとお話が」
「はい、何か?」
少し肩をビクつかせて、学がこちらを向く。
「実はお父さんから、学くんに三友商事で働いてほしいという要望があったんだよね」
「え、そうなんですか」
もっと仰天するかと思ったが、学は少し声を上げただけで思いの外冷静だった。
「先日のやりとりを見るに、父さんはそれくらいのことをしてくると思ってました」
なるほど、父親の行動は読めていたわけか。
「私は、正直言うと学くんの意志も聞かずにいきなり商社でフルタイムで働かせるのはどうかと思ったんだ。しかも、来月からだからかなり急だし」
阿久津は、学が断りやすいようにつらつらと社長の提案の無茶苦茶さについて語った。だが、学からの返答は思わぬものあった。
「僕、働きたいです。三友商事で」