薔薇色狂想曲
その日の夜のこと。

早く帰れと理名ちゃんや深月ちゃん、臨床心理士の道明くんからも諭された。

甘党男子である拓実くんから教えてもらったバウムクーヘンを買って帰った。

パンダの形にくり抜けるようになっていて、周りを型抜きしながら食べるのがウリらしい。

そのお店のトレードキャラクターの可愛いパンタがそこかしこに書かれたビニールバッグに入ったセットだ。

中にはパンダの形をしたサブレも入っていた。

碧は喜びそうだ。

こういうの、拓実の彼女の理名ちゃんは好みそうにないのに。

……なぜこのお店を知っているんだろう。

今まで自分の仕事に手一杯で、あまり碧と一緒の時間を過ごせなかった。

そのことを、彼女に謝ろう。

そう、思っていたのに。

予想外に、俺の知らないところで碧が苦悩していたこと。

一緒に住んでいるのに、全く気付いてやれなかった自分への自己嫌悪は、かなり深く自分の心を抉っていたようだ。

バウムクーヘンを冷蔵庫に入れたところで、タイミング良く碧が帰って来た。

「ただいま。
あれ?成司、早かったね」

「あの、きっと病院の薬剤師だから、事の経緯聞いてるよね。
ごめんね」

「碧さぁ。

頭痛がして仕事どころじゃなくなったから、同僚から貰った薬飲んだんだって?

俺、一応薬剤師だよ?

薬に関しては碧は知識ないんだし、俺に連絡するとか、病院通して俺に電話繋ぐとか、出来なかったわけ?

そんなに俺が信用ならないんだ。

それに、ヤーズフレックス飲んでたことも知らなかったんだけど」


「信用してないとかじゃない!

あまり仕事増やすと、成司は病院薬剤師になったばかりだし、良くないかな、って。

成司は妹の友映ちゃんがいるから分かってる、フォローはするって言ってくれたけど。

それでも。
ピークのときはベッドから動けないのは流石に成司に家事の負担が多くのしかかっちゃう。

それは嫌だから、少しでもマシにしたくて飲み始めたの。

仕事先も、各クライアント先を転々とするのしんどいの。

フリーランスにしようか悩んでいるのもそこだから、何とかしたくて。

言えなくて、ごめんね」

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