本の虫は恋煩う。
「あぁ、それはそうだね。
お小遣いのほとんどは本を買うために貯めてるから。
あとお年玉とかで買ってる」
『あ、私と同じだ』
お年玉はないけれど、毎月もらうお金を貯めて本を買っているのは同じ。
いやはや、まさかそこまでの本好きと出会えるとは光栄だ。
共感できる話に頷きつつ、逸らしてしまった話を戻す。
『私は“砂糖の街”シリーズが面白くて、その人の作品を読んでるよ』
「いいね。
あのシリーズは自衛隊の話とはいえ、割と読みやすいよね」
近衛君は穏やかに笑って肯定してくれた。
このシリーズ、君も読んでたんだ。
誰かと感想を分かち合えることがこんなにも嬉しいことだとは知らなかった。
『うん』
小さく首を縦に振って、読み終わったが紹介のために手元に置いていた“砂糖の街”の表紙をひと撫でした。
ゆるり、と口元が緩む。
「あ、笑った」
『え?』
近衛君の言葉に、ハッとした。
私、笑ってた?
無表情がデフォルトで過去に“ロボット”ってあだ名が付けられていた私が?
…あ、でも、たしかに本読んでる時はニヤニヤしてるかもしれない。
人にはほとんど無理なのに、本に対しては笑えるらしい。
なんてことだ。
「笑うともっと可愛い」
あぁ、隣からなんか口説き文句みたいなのが聞こえてくる…。
近衛君はいつでも声が優しいから、危うく勘違いしそうになるんだよね。
この人絶対人たらしだ…。
『………そんな褒めても何も出ないよ』
無意識のニヤニヤを見られたのが、なんだか気恥ずかしくて、顔を押さえて俯いたまま数分ほど動けなかった。