本の虫は恋煩う。
追いかけられた末に、足が遅い私は腕を取られてしまった。
「はぁはぁ、捕まえた!」
「逃さないよ」
クスクスと嘲笑うと共に悪意のこもったセリフを吐く彼女達に、恐怖から涙が滲む。
この人達は私をどうしたいのだろう?
傷つけて、支配して、壊して、何がしたいの?
『離してよ…』
走ったことと恐怖で喉はカラカラで、掠れた小さな声は届かない。
もうあんな辛いことは経験したくない。
なんでまた囚われないといけないの。
これ以上、誰かを憎みたくないよ。
これから受ける痛みを想像して、目の縁に涙が溜まっていく。
そして、つぅ、と涙が頬を伝った時、バッと誰かが私と女子2人を引き離した。
「大丈夫?弥上さん」
『…近衛君』
私服姿の近衛君は、私の泣き顔を隠すように背中に隠してくれた。
頼りがいのある背中に安心して涙がボロボロ溢れた。