本の虫は恋煩う。

 

 追いかけられた末に、足が遅い私は腕を取られてしまった。

「はぁはぁ、捕まえた!」
「逃さないよ」

 クスクスと嘲笑(あざわら)うと共に悪意のこもったセリフを吐く彼女達に、恐怖から涙が滲む。
 この人達は私をどうしたいのだろう?
 傷つけて、支配して、壊して、何がしたいの?


『離してよ…』
 

 走ったことと恐怖で喉はカラカラで、掠れた小さな声は届かない。

 もうあんな辛いことは経験したくない。
 なんでまた囚われないといけないの。
 これ以上、誰かを憎みたくないよ。

 これから受ける痛みを想像して、目の(ふち)に涙が溜まっていく。


 そして、つぅ、と涙が頬を伝った時、バッと誰かが私と女子2人を引き離した。




「大丈夫?弥上さん」



『…近衛君』 



 私服姿の近衛君は、私の泣き顔を隠すように背中に隠してくれた。
 頼りがいのある背中に安心して涙がボロボロ溢れた。


< 25 / 37 >

この作品をシェア

pagetop