本の虫は恋煩う。
片手は本を抱いているため、もう片方の手でガラガラと保健室のドアを開けた。
「おかえり。
ちゃんと図書室まで行けたか?」
出迎えてくれたのは白衣を着た養護教諭の河野先生。
茶髪のショートがよく似合う快活でサバサバした姉御肌の若い女性だ。
『ただいま帰りました。
って、先生、人を子ども扱いしないでくださいよ!
図書室くらい一人で行けます』
保健室に入りドアを閉めると憤慨した。
河野先生はいつもいつも私が保健室を出て戻ってくると、おつかいに行ってきた幼い子どもみたいな扱いをしてくるんだから。
まったく、失敬な。
「だって世那は滅多に保健室から出ないからさ。
心配にもなるもんさ」
『うぐ、そ、それは否めない…』
同級生等と会いたくなくて、保健室に引きこもっているのは紛いもない事実。
まぁ、入学してから半年間一度も教室には行ってないし顔も覚えられてないだろうから、誰かに見られたところで分からないだろうけどさ。