本の虫は恋煩う。



 図星をさされ項垂(うなだ)れる私に河野先生はニッと笑って「まぁ、閉じこもってても気持ちが濁るだけだろうし、たまには外に出てなよ」と軽く言った。

 河野先生は私の過去等を知っているため、私に無理強いはしない。
 しかし、こうしてたまに助言をくれる。
 そのことに何度救われただろう。

 暫く考えてから、口を開く。

『…図書室ならもう少し通う回数を高められそうです』
 
 図書室はあまり人が来ない。
 せっかく沢山本があるのにもったいないとも思うけれど、人が多いところが苦手な私にとっては都合がいい。

「そうか、それは良さそうだな。
 ちなみに今日は何を借りたんだ?」

 先程私が借りてきた本に河野先生は興味を示した。

 私は昔から本が好きで、かじりつくように読んでいた。
 河野先生も本が好きらしく、たまに自分が持ってる本を私に貸してくれる。
 その中でも、アガサ・クリスティのミステリーは難しかったけれど、とても読み応えがあった。
 私は持っていた数冊の本の表紙を見せる。
 
『“紅茶が冷めないうちに”のシリーズです』
「あぁ、映画化されたヤツ?」
『そうです!めちゃくちゃ泣けますよ!』
「へー、今度読んでみよ」

 保健室に居座る私なんかの話を聞いてくれる河野先生は本当に女神みたいだ。
 だからこそ、迷惑をかけていることをわかっていながら甘えてしまう自分が情けなく感じる。



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