本の虫は恋煩う。




 それから図書室で3部すべてを読破してしまった。
 いい作品に出会えてホクホクしてしまう。
 この3部作の作者さんの本、どれも面白そうだから借りていこう。
 読んだ本を戻して何冊か借りた。

 途中人が入ってくる気配もなかったし、このまま保健室に戻れば問題はないかな。
 そう思って時計を見れば、HRが終わった放課後の時刻だった。 
 やば、と早く図書室を出ようとしてドアに手をかけた時。

 先にドアが開いた。
 
『えっ』

 誰も来ないだろうとたかをくくっていた故に、唐突な誰かの登場に途端に顔が青くなる。
 パッと反射的に手を引っ込めると、後ろに下がった。

「あ、ごめんね」

 上から耳に馴染(なじ)むような優しい声が降ってくる。
 あぁ、全く悪くないのに謝らせてしまった。

 ぶつかりかけた相手は、制服からして男の子のようだった。 
 コミュ障の上に男子と話したことがない免疫0の私は目を合わせるどころか顔も上げれなくて申し訳ない。

『だ、大丈夫です。
 失礼します』

 挙動不審で情けない姿を露呈(ろてい)する前に、早く立ち去りたい。
 その一心から、ばっと深い礼をして、男の子の横をするりと掻い潜(かいくぐ)った。

「あ」

 どうにかその場をしのぐことで頭がいっぱいだったため、男の子がかけた制止の声は聞こえなかった。
 
「…あの子が弥上さんか」

 これが私の日常を変える出来事のきっかけだとは思いもしなかった。



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