名前をなくした花嫁は自由結婚で愛を知る。
第1話「花宮という少女」
〇(つぐみの過去回想)料亭の一室(昼)
大きな屋敷の高級料亭。
開放された縁側から日本庭園が見える一室で婚約の顔合わせをする、花宮家と諏訪部家。
季節は4月。桜の花びらが舞っている。
主人公・花宮つぐみはきれいな振袖に身を包み、婚約者・諏訪部律はスーツを着用している。
つぐみとその両親、律とその両親がテーブルを挟んで正座している。
つぐみ、三つ指をついて、
つぐみ「お初にお目にかかります。花宮つぐみと申します」
続いてつぐみの父・母(以降:花宮・父、花宮・母と表記)も床に手を突き、
花宮・父「諏訪部様、この度はご子息とのご縁談を快諾していただき、有り難うございます!」
花宮・母「花宮家一同、心より感謝申し上げます……!」
頭を下げる花宮家一同を見て、律の父・母(以降:諏訪部・父、諏訪部・母と表記)、笑いながら、
諏訪部・父「(下品に)あっはっはっは! まあまあそう堅くならんで。ほれ、つぐみさんも。顔を上げなさい」
ゆっくりと顔を上げるつぐみ。
縁側から風が流れ込み、つぐみの周りに桜の花びらが舞う。
風に揺れる長くてきれいな髪、ぱっちりとした目。
無表情だが、凛とした美しさが伝わる。
諏訪部・父「いやあ、それにしてもきれいなお嬢さんだ」
諏訪部・母「ええほんとに」
諏訪部・父「なあ、律。お前もそう思うだろう?」
律「はい」
律、マッシュヘア。清楚だが可愛らしい印象。
律とつぐみ、目が合う。
律、つぐみに向けてにっこり微笑む。後光が差すようなキラキラとした雰囲気。
つぐみ、微笑み返すが、どこか悲しそうな表情。
つぐみM「私には 名前がない」
花宮・母「そう言っていただけて、本当に光栄ですわ……!」
花宮・父「ふつつかな娘ではございますが、これからも末永くよろしくお願いいたします……!」
花宮家一同、再び深く頭を下げる。
つぐみ、悲しげな表情で、唇をきゅっと噛みしめる。
つぐみM「いつだって私は 花宮の娘 ただそれだけにすぎないんだ――」
タイトル『名前をなくした花嫁は自由結婚で愛を知る。』
T「第1話 『花宮という少女』」
〇学校・教室(昼休み)
教室後方、窓際の席。
親友・梨沙と机を並べて昼食。
梨沙はパン、つぐみはお弁当を食べている。
廊下から「キャー」という女子生徒たちの声が聞こえる。
つぐみと梨沙、廊下を見る。
梨沙「相変わらずすごい人気だね、あんんたの婚約者」
女子生徒が律を囲んで騒いでいる。
梨沙「まあそれもそうだよね。諏訪部君、頭よくてスポーツ万能、弓道部では主将で全国大会にも出てる。そんでおまけにあのイケメンときた。モテない理由がないって感じ」
つぐみ「だね……」
梨沙「あんな人が婚約者だなんて……羨ましいぞこのー!(つぐみを小突く)」
つぐみ「あはは……」
廊下にいる律、教室内につぐみを見つけ、
女子たちに「ちょっとごめんね」と声をかけ、教室に入って来る。
律「つぐみちゃん」
つぐみ・梨沙「!」
つぐみ「り、律君」
律「2組の前通ったらつぐみちゃん居たから、来ちゃった」
つぐみ「あっ、そうなんだ……」
梨沙、ニヤニヤして、
梨沙「あ。あ~~~~……私のど乾いたからジュース買ってこよっかな~~~~……じゃあお二人さん、ごゆっくり!」
教室を出て行く。
つぐみ「(悶絶して)~~~~~~!!」
律「ごめん、二人のランチタイム邪魔しちゃったね」
つぐみ「あっ……! いやいいの全然! 気にしないで……!」
手をぶんぶん振るつぐみ。
律、焦るつぐみの様子を見て、優しく微笑む。
律、梨沙の座っていた椅子に腰かける。
律、つぐみのお弁当に目をやる。
律「わ、美味しそうだね」
つぐみ「え。あ、ありがとう」
律「自分で作ったの?」
つぐみ「う、うん」
律「つぐみちゃん、料理上手なんだね」
つぐみ「いや、そんなことは……」
律「今度、僕にも作ってほしいな」
つぐみ「(遠慮がちに微笑み)……うん」
にっこり笑いかける律。
律「あ、そうだ。今日さ、一緒に帰らない?」
つぐみ「えっ」
律「ほら、僕たち婚約したのに、まだ二人でどこにも行ってないでしょ? だから、どこか静かなカフェにでも行って、ゆっくりお話ししようよ」
つぐみ「あれ、今日部活は……?」
律「今日はオフなんだ」
つぐみ「あ、そうなんだ……」
数秒の沈黙が流れる。
律「(困ったように)……だめかな?」
つぐみ「う、ううん! 全然いいよ、行こ行こ!」
律「よかった……! じゃあまた放課後、迎えに来るから!」
つぐみ「わかった! バイバイ……!」
席を立ち、手を振って去っていく律。
律が教室を出たのを確認し、ふぅっと息をつくつぐみ。
梨沙、つぐみのもとへ駆け寄ってくる。紙パックのジュースを二つ持っている。
梨沙、つぐみにジュースをひとつ渡しながら、
梨沙「なんだなんだー? デートのお誘いかー??」
つぐみ「(ジュース受け取って)デ、デートって! 別にそんなんじゃないよ……!」
梨沙「え、なにその感じ。……二人まさかデートしたことないの!? え、あんたたち婚約してるんだよね!?」
つぐみ「ま、まあ私はこの前18になったけど、律君は12月生まれだし……結婚はまだ……」
梨沙「でも12月にはするんでしょ!? 今デートのひとつもできなくてどーすんのさ!」
つぐみ「うぅ……」
梨沙「もー! なにうじうじしてんのさ! 大好きな婚約者とのデデデート!! 楽しんで来な!!」
つぐみ「あはは……」
つぐみ、やや表情暗くなって、
つぐみM「大好きな人、かあ……」
〇教室(放課後)
下校のチャイムが鳴る。
時計は16時30分。
ゆっくりとカバンにものをしまい、帰りの支度をするつぐみ。
梨沙「それじゃあたし部活だから行くね! デデデート楽しんで!」
つぐみ「ははは……ありがと。梨沙も部活頑張って……!」
サムズアップをして教室を出る梨沙。
女子クラスメイトA「つぐみちゃんバイバイ!」
女子クラスメイトB「じゃあねつぐみ! また明日!!」
つぐみ「バイバイ!」
クラスメイトが次々と教室を出て、つぐみ、教室に一人になる。
しばらく教室で律を待つつぐみ。
つぐみ「…………」
つぐみM「迎えに来るって言ってた……よね?」
つぐみ、教室の時計を見る。
時刻は17時を過ぎている。
つぐみ「遅いな……」
立ち上がり、律のクラスへ向かおうと教室を出て、廊下を進んでいく。
つぐみ「(小声で)大好きな、人……」
つぐみM「律君のことが好きかと聞かれると、正直よくわからない……」
つぐみM「だって、結婚が決まってからであった人だもん……」
女子クラスメイトC「(すれ違いざまに)あ、つぐみ! 今日諏訪部君とデートなんでしょ!? いいなあ! 楽しんでね!」
つぐみ「あはは、ありがとう」
つぐみM「律君って、ほんとに人気者だなあ……」
つぐみM「……律君は優しくてなんでもできて、みんなの人気者。私にも親切にしてくれる」
×××
(フラッシュ)
〇花宮家宅・和室の広間
花宮・父が会社の人を大勢招き宴会をしている。
酒瓶が何本も転がり、どんちゃん騒ぎ。
酔っ払った花宮・父、部下に向かって、
花宮・父「いやあ、生まれた子が女だって聞いたときにはどうしようかと思ったが、今ではよかったとさえ思うよ! あいつがいなかったら一体どうなっていたことか!」
花宮・父「これで我が社の命運は回復! 将来安泰、万々歳だ!」
会社の部下一同「いえーい!(歓声)」
花宮・父「いやあ、娘ってのは本当に――」
×××
(戻って)
ㇵッと我に返り、フラッシュバックを振り払うようにブンブンと頭を振る。
つぐみM「確かに、私と律君は家同士の結びつきのために婚約した」
つぐみM「でももしかしたら。もしかしたら、優しい律君なら私のこと――」
つぐみ、律のクラス(6組)の前に到着。
つぐみ、教室の戸に手をかけた瞬間、中から話し声が聞こえ、手を止める。
男子生徒A「いやー2組の花宮、可愛いよな」
男子生徒B「んーまあね? 可愛いは可愛い。でも律ならもっと可愛い子捕まえられるだろ」
律「なに言ってんだよ……」
男子生徒C「いやいや実際そうだろ? お前選び放題なのにこんなに早く結婚相手決まってるなんて、もったいねえよ」
男子生徒A「だよなー。好きでもないやつと一生一緒なんて、耐えられるか?」
律「……この結婚は親同士が決めたことだ。だから彼女のことは――」
律、教室の戸を開ける。
ドアの前には、つぐみがうつむいて立っている。
律「!」
律「つ、つぐみちゃん……」
律の後ろで「おい、まじかよ」と慌てざわめく男子生徒たち。
つぐみ「はは……やっぱりそうだよね」
涙を流すつぐみ。
律「違うんだよ、つぐみちゃん……」
律、つぐみの顔にそっと手を差し伸べるが、
つぐみ「……っ!」
つぐみ、律のを振り払って駆けだす。
律「つぐみちゃん……!」
律、その場に佇む。
〇線路沿いの道路(夕方)
雨が降る中、傘も刺さずに走るつぐみ。
つぐみM「『私のこと大切にしてくれるかも』なんて」
つぐみ、キッと顔を上げる。
大粒の涙がとめどなく溢れている。
つぐみ「バカみたいバカみたいバカみたい……!!」
次の瞬間、つぐみ、ズシャッと勢いよく転ぶ。
地面に手をついてなんとか体を起こす。
手と膝に傷、制服は汚れ、水浸し。
×××
(フラッシュ)
花宮・父「いやあ、娘ってのは本当に、便利な道具だ」
×××
つぐみ、大粒の涙を流す。
つぐみM「私はやっぱり、“花宮の娘”でしかないんだ」
立ち上がる気力もなく泣き続けるつぐみ。
つぐみ「もう嫌だ……」
ずぶ濡れで泣き続けるつぐみ。
次の瞬間、つぐみの体を濡らしていた雨が体に当たらなくなる。
つぐみ「……?」
不思議に思い、顔を上げるつぐみ。
つぐみの目の前には、無表情でつぐみに傘を差す黒髪長髪、細身で高身長の青年・諏訪部奏人(21)。
二人、見つめ合い、1話終了。
大きな屋敷の高級料亭。
開放された縁側から日本庭園が見える一室で婚約の顔合わせをする、花宮家と諏訪部家。
季節は4月。桜の花びらが舞っている。
主人公・花宮つぐみはきれいな振袖に身を包み、婚約者・諏訪部律はスーツを着用している。
つぐみとその両親、律とその両親がテーブルを挟んで正座している。
つぐみ、三つ指をついて、
つぐみ「お初にお目にかかります。花宮つぐみと申します」
続いてつぐみの父・母(以降:花宮・父、花宮・母と表記)も床に手を突き、
花宮・父「諏訪部様、この度はご子息とのご縁談を快諾していただき、有り難うございます!」
花宮・母「花宮家一同、心より感謝申し上げます……!」
頭を下げる花宮家一同を見て、律の父・母(以降:諏訪部・父、諏訪部・母と表記)、笑いながら、
諏訪部・父「(下品に)あっはっはっは! まあまあそう堅くならんで。ほれ、つぐみさんも。顔を上げなさい」
ゆっくりと顔を上げるつぐみ。
縁側から風が流れ込み、つぐみの周りに桜の花びらが舞う。
風に揺れる長くてきれいな髪、ぱっちりとした目。
無表情だが、凛とした美しさが伝わる。
諏訪部・父「いやあ、それにしてもきれいなお嬢さんだ」
諏訪部・母「ええほんとに」
諏訪部・父「なあ、律。お前もそう思うだろう?」
律「はい」
律、マッシュヘア。清楚だが可愛らしい印象。
律とつぐみ、目が合う。
律、つぐみに向けてにっこり微笑む。後光が差すようなキラキラとした雰囲気。
つぐみ、微笑み返すが、どこか悲しそうな表情。
つぐみM「私には 名前がない」
花宮・母「そう言っていただけて、本当に光栄ですわ……!」
花宮・父「ふつつかな娘ではございますが、これからも末永くよろしくお願いいたします……!」
花宮家一同、再び深く頭を下げる。
つぐみ、悲しげな表情で、唇をきゅっと噛みしめる。
つぐみM「いつだって私は 花宮の娘 ただそれだけにすぎないんだ――」
タイトル『名前をなくした花嫁は自由結婚で愛を知る。』
T「第1話 『花宮という少女』」
〇学校・教室(昼休み)
教室後方、窓際の席。
親友・梨沙と机を並べて昼食。
梨沙はパン、つぐみはお弁当を食べている。
廊下から「キャー」という女子生徒たちの声が聞こえる。
つぐみと梨沙、廊下を見る。
梨沙「相変わらずすごい人気だね、あんんたの婚約者」
女子生徒が律を囲んで騒いでいる。
梨沙「まあそれもそうだよね。諏訪部君、頭よくてスポーツ万能、弓道部では主将で全国大会にも出てる。そんでおまけにあのイケメンときた。モテない理由がないって感じ」
つぐみ「だね……」
梨沙「あんな人が婚約者だなんて……羨ましいぞこのー!(つぐみを小突く)」
つぐみ「あはは……」
廊下にいる律、教室内につぐみを見つけ、
女子たちに「ちょっとごめんね」と声をかけ、教室に入って来る。
律「つぐみちゃん」
つぐみ・梨沙「!」
つぐみ「り、律君」
律「2組の前通ったらつぐみちゃん居たから、来ちゃった」
つぐみ「あっ、そうなんだ……」
梨沙、ニヤニヤして、
梨沙「あ。あ~~~~……私のど乾いたからジュース買ってこよっかな~~~~……じゃあお二人さん、ごゆっくり!」
教室を出て行く。
つぐみ「(悶絶して)~~~~~~!!」
律「ごめん、二人のランチタイム邪魔しちゃったね」
つぐみ「あっ……! いやいいの全然! 気にしないで……!」
手をぶんぶん振るつぐみ。
律、焦るつぐみの様子を見て、優しく微笑む。
律、梨沙の座っていた椅子に腰かける。
律、つぐみのお弁当に目をやる。
律「わ、美味しそうだね」
つぐみ「え。あ、ありがとう」
律「自分で作ったの?」
つぐみ「う、うん」
律「つぐみちゃん、料理上手なんだね」
つぐみ「いや、そんなことは……」
律「今度、僕にも作ってほしいな」
つぐみ「(遠慮がちに微笑み)……うん」
にっこり笑いかける律。
律「あ、そうだ。今日さ、一緒に帰らない?」
つぐみ「えっ」
律「ほら、僕たち婚約したのに、まだ二人でどこにも行ってないでしょ? だから、どこか静かなカフェにでも行って、ゆっくりお話ししようよ」
つぐみ「あれ、今日部活は……?」
律「今日はオフなんだ」
つぐみ「あ、そうなんだ……」
数秒の沈黙が流れる。
律「(困ったように)……だめかな?」
つぐみ「う、ううん! 全然いいよ、行こ行こ!」
律「よかった……! じゃあまた放課後、迎えに来るから!」
つぐみ「わかった! バイバイ……!」
席を立ち、手を振って去っていく律。
律が教室を出たのを確認し、ふぅっと息をつくつぐみ。
梨沙、つぐみのもとへ駆け寄ってくる。紙パックのジュースを二つ持っている。
梨沙、つぐみにジュースをひとつ渡しながら、
梨沙「なんだなんだー? デートのお誘いかー??」
つぐみ「(ジュース受け取って)デ、デートって! 別にそんなんじゃないよ……!」
梨沙「え、なにその感じ。……二人まさかデートしたことないの!? え、あんたたち婚約してるんだよね!?」
つぐみ「ま、まあ私はこの前18になったけど、律君は12月生まれだし……結婚はまだ……」
梨沙「でも12月にはするんでしょ!? 今デートのひとつもできなくてどーすんのさ!」
つぐみ「うぅ……」
梨沙「もー! なにうじうじしてんのさ! 大好きな婚約者とのデデデート!! 楽しんで来な!!」
つぐみ「あはは……」
つぐみ、やや表情暗くなって、
つぐみM「大好きな人、かあ……」
〇教室(放課後)
下校のチャイムが鳴る。
時計は16時30分。
ゆっくりとカバンにものをしまい、帰りの支度をするつぐみ。
梨沙「それじゃあたし部活だから行くね! デデデート楽しんで!」
つぐみ「ははは……ありがと。梨沙も部活頑張って……!」
サムズアップをして教室を出る梨沙。
女子クラスメイトA「つぐみちゃんバイバイ!」
女子クラスメイトB「じゃあねつぐみ! また明日!!」
つぐみ「バイバイ!」
クラスメイトが次々と教室を出て、つぐみ、教室に一人になる。
しばらく教室で律を待つつぐみ。
つぐみ「…………」
つぐみM「迎えに来るって言ってた……よね?」
つぐみ、教室の時計を見る。
時刻は17時を過ぎている。
つぐみ「遅いな……」
立ち上がり、律のクラスへ向かおうと教室を出て、廊下を進んでいく。
つぐみ「(小声で)大好きな、人……」
つぐみM「律君のことが好きかと聞かれると、正直よくわからない……」
つぐみM「だって、結婚が決まってからであった人だもん……」
女子クラスメイトC「(すれ違いざまに)あ、つぐみ! 今日諏訪部君とデートなんでしょ!? いいなあ! 楽しんでね!」
つぐみ「あはは、ありがとう」
つぐみM「律君って、ほんとに人気者だなあ……」
つぐみM「……律君は優しくてなんでもできて、みんなの人気者。私にも親切にしてくれる」
×××
(フラッシュ)
〇花宮家宅・和室の広間
花宮・父が会社の人を大勢招き宴会をしている。
酒瓶が何本も転がり、どんちゃん騒ぎ。
酔っ払った花宮・父、部下に向かって、
花宮・父「いやあ、生まれた子が女だって聞いたときにはどうしようかと思ったが、今ではよかったとさえ思うよ! あいつがいなかったら一体どうなっていたことか!」
花宮・父「これで我が社の命運は回復! 将来安泰、万々歳だ!」
会社の部下一同「いえーい!(歓声)」
花宮・父「いやあ、娘ってのは本当に――」
×××
(戻って)
ㇵッと我に返り、フラッシュバックを振り払うようにブンブンと頭を振る。
つぐみM「確かに、私と律君は家同士の結びつきのために婚約した」
つぐみM「でももしかしたら。もしかしたら、優しい律君なら私のこと――」
つぐみ、律のクラス(6組)の前に到着。
つぐみ、教室の戸に手をかけた瞬間、中から話し声が聞こえ、手を止める。
男子生徒A「いやー2組の花宮、可愛いよな」
男子生徒B「んーまあね? 可愛いは可愛い。でも律ならもっと可愛い子捕まえられるだろ」
律「なに言ってんだよ……」
男子生徒C「いやいや実際そうだろ? お前選び放題なのにこんなに早く結婚相手決まってるなんて、もったいねえよ」
男子生徒A「だよなー。好きでもないやつと一生一緒なんて、耐えられるか?」
律「……この結婚は親同士が決めたことだ。だから彼女のことは――」
律、教室の戸を開ける。
ドアの前には、つぐみがうつむいて立っている。
律「!」
律「つ、つぐみちゃん……」
律の後ろで「おい、まじかよ」と慌てざわめく男子生徒たち。
つぐみ「はは……やっぱりそうだよね」
涙を流すつぐみ。
律「違うんだよ、つぐみちゃん……」
律、つぐみの顔にそっと手を差し伸べるが、
つぐみ「……っ!」
つぐみ、律のを振り払って駆けだす。
律「つぐみちゃん……!」
律、その場に佇む。
〇線路沿いの道路(夕方)
雨が降る中、傘も刺さずに走るつぐみ。
つぐみM「『私のこと大切にしてくれるかも』なんて」
つぐみ、キッと顔を上げる。
大粒の涙がとめどなく溢れている。
つぐみ「バカみたいバカみたいバカみたい……!!」
次の瞬間、つぐみ、ズシャッと勢いよく転ぶ。
地面に手をついてなんとか体を起こす。
手と膝に傷、制服は汚れ、水浸し。
×××
(フラッシュ)
花宮・父「いやあ、娘ってのは本当に、便利な道具だ」
×××
つぐみ、大粒の涙を流す。
つぐみM「私はやっぱり、“花宮の娘”でしかないんだ」
立ち上がる気力もなく泣き続けるつぐみ。
つぐみ「もう嫌だ……」
ずぶ濡れで泣き続けるつぐみ。
次の瞬間、つぐみの体を濡らしていた雨が体に当たらなくなる。
つぐみ「……?」
不思議に思い、顔を上げるつぐみ。
つぐみの目の前には、無表情でつぐみに傘を差す黒髪長髪、細身で高身長の青年・諏訪部奏人(21)。
二人、見つめ合い、1話終了。
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