ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
「し、篠井くんっ」

 私は篠井くんに渡されたコード譜を見ながら困惑する。

「なんかこの曲難しくない…?」

「は?難しいとかある?コードでジャカジャカ弾くだけだろ」

「そ、そうだけど……っ」

 なんか見たことないコードがたくさんで、コード進行もクセが強くて全然馴染みないから頭に入ってこない……!
 その上歌詞も覚えなきゃいけないなんて!

 涙目でコードを追っていると、横から視線を感じた。
 見ると篠井くんが、自分のギターの上に組んだ腕をのせて、その腕に顔をうずめてじっと私を見ている。
 雑誌の1ページみたいなイケメン仕草に、心臓がひときわ大きな音をたてた。

「いい曲だろ?」

「っ……、」

 顔の整った篠井くんにこんな風に改まって見つめられたら、たとえよくない曲でも〝うん〟と言ってしまいそうだ。
 ていうかこの曲をさっき聞いて感動して泣いたばかりの私には、頷く以外許されない。

「書いてある通りに指で押さえて弾いて歌うだけだろ。何がそんな難しいんだよ」

 本当にわからないらしい篠井くんが、無垢な目で私に聞いてくる。
 そういえば篠井くんはギターも歌も天才的ってネットで評判になってた。
 ほんとに天才なんだな……。

「……頑張るね」

 苦笑いで言うと、篠井くんが不思議そうに「おう」と頷いた。
 凡人の私は、努力で補うしかないみたいだ……。
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