ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼



 家に帰ってきた私は急いで暗い部屋の電気をつけた。
 リビングのテーブルには【遅くなります】というメモと、千円札が置かれている。
 私は、この狭いボロアパートでお母さんと二人暮らしをしている。
 お母さんの仕事は帰りが遅い日が多い。
 いつもならこの千円を使って近所のスーパーで惣菜を買って済ませるけど、今日はごはんなんか食べてる場合じゃない。
 お母さんが遅い日の帰りは22時頃で、今は17時45分。
 うん、お風呂や片付けの時間を考えても三時間は練習できそう…!
 私はさっそくギターを取り出してクタクタの座布団に座り、今日教えてもらった曲を練習し始める。
 近所の人に聞かれては困るから、指で押さえるところを確認するだけで音は鳴らさない。
 
「D#7-5…? え、こんなところ指届かない…F#m9…?」

 うぅ……やっぱり難しいよ篠井くん……!
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