ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
「そんな汚い声、誰が聞きたいって言うのよ!お祭りのライブなんて大勢の人の前で恥かくだけだからやめなさい!」

 そのとき私は理解した。

 〝あ 駄目なんだ〟

 ふ、と何かが体から抜け落ちていくような脱力感に襲われた。

 この人には私の声は届かない。
 聞こうともしてくれない。

 お母さんは私の両肩に手を置いて、さっきと打って変わって優しい声音で話す。

「いい?これはあなたの為を思って言ってるの。ギターも歌も、もうやめなさい。そんなことよりやらなきゃいけないことがたくさんあるでしょう。宿題とか復習・予習はやったの?学校の勉強はちゃんとやってるんでしょうね」

 ……ねぇ、お母さん。
 私の顔、見えてる?
 私の声、ちゃんと聞こえてる?

「……うん。ちゃんとやってる」

 今、すごく悲しいよ。気付いてよ。

「はぁ……それならいいのよ。大きな声出して悪かったわね。お夕飯まだよね?支度するから手伝って」

「……うん」
 
 ひどく疲れた様子のその背中を眺めながら、私はギターをギュッと抱きしめた。

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