ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
負けられない戦い
 お祭り当日、午前10時。
 歩行者天国になった駅前商店街では、早くも屋台が開店しだして、お客さんたちがパラパラと覗きにやってきている。
 その中の、芝生広場に作られた特設ステージの脇。 そこに今日のコンテスト概要を書いた看板が置かれていた。

 *
 
【須加戸ミュージックフェス・予選会 Vol.23】
 須加戸出身アーティストによる夜のメインステージ出演を懸けた熱い音楽バトル!
 優勝者景品:メインステージ出演権+商店街特別優待割引券
 審査は審査員・来場者の投票制(※投票者には抽選で豪華景品あり!)
 気軽にかっこいい!と思ったアーティストに投票してください!

 *

 
「余裕で優勝だな」
 
 隣の篠井くんが真顔で呟いた。
 まったくそう思えない私は、寒くもないのに身震いした。

「あ!篠井くん、今日はよろしくね!」

 後ろから声がして、振り向く。

「田中さん。よろしくお願いします」

 見るからに優しそうなひげのおじさんは、主催者の田中さん。 元々篠井くんと交流があり、今回の話も田中さんの方からオファーがあったそうだ。
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