ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
「お前今、全然コード譜通りに弾いてなかった」

「えっ」

「勝手に簡単なコードに作り直して弾いてただろ」

「え!?うそ!!ごめん…っ」

 無意識にアレンジしてたなんて…!
 頭を抱える私に、篠井くんがハッと笑った。

「それでいい。それが音葉の音なんだろ」

「……!」

「足りない音は俺が補う。もう練習することねーからテキトーにしとけ」

 篠井くんはそう言い残して田中さんの元へ行ってしまった。

「……っ」

 いま、音葉って、言った……っ



「……津木沼?」

 男の子の声がすぐ後ろでして、反射的に悪寒が走る。 恐る恐る、声のする方に目を向けた。

「ハハ!やっぱそうだ!」

「……山岸くん……」

 そこには、軽音部の山岸くんといつもの取り巻きの男の子たちがいた。
 顔にはいつものやらしい笑みを張り付けて、屋台で買ったのか、手にフワフワのわたあめを持っている。

「なんでここにいんの!?えっ、もしかしてコンテスト出んの!?」

 山岸くんは前のめりで私にどんどん近づいてきて、唾が飛んできそうな勢いで話す。

「ウケんだけど!最前で見るわ!アッハハ!」

「や……山岸くんも出る、の……?」

 山岸くんは私の質問を受けて、なぜか嬉しそうにニタァ、と笑った。

「残念だったなぁ。もう夜のメインステージ出る人は決まってんだよ」

「え……?」

 決まってる?

 その時、後ろの方から楽器を持った五人組が来た。
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