ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼

 
 そのあと私たちは、お昼ご飯を食べに屋台を巡った。 痩せすぎだからもっと食えって篠井くんに怒られながら会場に戻ると、置かれたパイプ椅子にはすでに何人か座る人がいた。

 わ、お客さんだ……!

 いざ目の前にするとすっごくドキドキしてくる。
 本番開始まであと10分ほど。 出番は一番目だから、もうすぐステージで演奏だ。
 お客さんたちの横を通り過ぎて、出演者用のテントに入ると、他の出演者が何組かいて、挨拶をかわす。 軽音部の幹部たちはいないみたいだ。

「あれ……?」

 荷物置き場に、違和感を覚える。

 ……ない。

「おい……ギターは?」

 そこには、篠井くんのギターケースだけが置かれていて、私のギターケースが見当たらない。

「っ、ない…!」

 ギターがない……!
 サァ、と全身の血の気が引いていく。

「……探すぞ」

「うん…!」

 それから周りに置いてあるものをどけてみたり、客席やステージ上まで、至る所を探した。 そこにいた人たちにも話を聞いてみたけど、なんの手がかりもない。

「盗まれた……?」

 私のギターは傷だらけのお古だけど、老舗の有名メーカーのギター。売ればそれなりの値段にはなる。

「そんな……」

 お父さんの、形見のギター……
 力が入らなくなって、私はそこにあった椅子に座り込んだ。
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