ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
 そんな中、軽音部の演奏が始まった。
 体の真ん中がぽっかりと開いた状態でその音色を聞いたら、元々少ない自信がどんどんなくなっていくのを感じた。
 ドクン、ドクンと不安が鼓動を早くさせる。
 程なくして、篠井くんは弦を全て張り終えた。

「っしゃー間に合った!」

「あ、ありがとう……っ」

 篠井くんが試し弾きをした。さっきよりはいくらかマシだ。

「弾きにくいと思ったらこれネック反りまくってんな……お前は俺の使え」

「えっ」

「こっちのがまだ弾きやすいだろ」

 篠井くんが自分のギターを私に差し出した。

「や、でも……」

「いいから」

 篠井くんはもう軽音部のギターを手放す気はなさそうで、私は渋々篠井くんのギターを受け取った。

「すいませーん!えっとー、sushiumaiさん!スタンバイお願いしまーす!」

 スタッフの人に呼ばれた。篠井くんと目を見合わせて、頷く。
 もう、やるしかない。
 私は父のギターとは違う形の篠井くんのギターを、ギュッと抱きしめた。

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