ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
「……泣きすぎ」

「っ、ご、ごめ……っ」

 嬉しくて。 嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。
 数分前の私はこんな奇跡みたいなことが起こるなんて思ってもみなかった。
 
 小さくため息をついた篠井くんが、初めて会ったときと同じように向き合って私の頬を拭った。 その手つきはやっぱり優しくて、あったかい。

「泣き虫だよな、お前」

 そういえば、篠井くんの前では泣いてばかりだ。

「ごめん……っ」

「あと謝りすぎ」

「ごめ……あっ、……ぅ、」

「言葉に詰まってんじゃねーよ」

 篠井くんが屈託なく笑って、つられてフフ、と笑みが溢れた。

< 63 / 83 >

この作品をシェア

pagetop