ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
「なに?どうしたの?」

 会場がざわつき始める。 篠井くんも演奏を止めた。
 お腹がキリキリと痛み出す。

 ……無理だ。歌えない。こんな状況で歌えるわけない。やっぱり私は……

「音葉」

 篠井くんに呼ばれて、縋るように目を向けた。

「ブハッ」

 篠井くんが噴きだした。

「えぇ…」

 まさかのひどすぎる反応に、こらえていた涙が出そうになる。

「なんつー顔してんだ。見ろよ」

 楽しそうに笑う篠井くんが示したのは、観客側。

「音葉ちゃーん!」「頑張れー!!」

 ……!

 それは、私が今まで感じてきた視線とまったく違う視線だった。
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