ひとりぼっち歌姫とヘッドフォンの彼
 お父さんは私が小学校にあがるとき、突然の心不全で亡くなった。
 その時からお母さんは、私がギターを弾くとうるさい!と怒鳴り散らして泣くようになった。
 だから私は、お母さんがいない場所でこっそりギターを弾く。

 今日はお母さんが遅番の日だから帰ってもいないだろうけど、家で歌うと近所のお節介な人がお母さんに話してしまうことがある。
 こないだ油断して帰りが遅くなった時にもその近所の人が見ていたらしく、私が夜遊びしてるとかって噂が出回ってしまって、それもひどく怒られた。

 お母さんは、〝どうしてお母さんを悲しませるようなことばかりするの〟って絶望した目でため息をつく。

 ギターをやめないことも、不登校になったことも、ようやく通い出した中学校で友達ができないことも……
 私はお母さんを悲しませることしかできない。
 最後にお母さんの笑顔を見たのは、いつだったっけ。
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