人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
夕暮れが近付き、辺りは薄暗くなり始めている。王都の街にはあちこちで明かりが灯り始め、市場や街は昼間とは違った色をつけていく。

「綺麗……」

「王宮を見てごらん」

ヴァイオレットが呟くと、隣から声がかかる。イヴァンに言われた王宮を目にした時、ヴァイオレットの目が見開かれた。

明かりが淡く光を放つ王宮は、まるでお伽話に迷い込んだような錯覚を覚えてしまうほど美しいとヴァイオレットは思ってしまう。外観にもこだわって建てられたのであろう王宮は、息を呑んでしまうほど大きく、そして美しい。

「……王宮をじっくり見るのは初めてです」

「前回、この王都に来た時はシャーデンフロイデの調査が目的だったからね。王宮をじっくり見ている時間はなかったから仕方ない」

夜会が開かれるということもあり、王宮の門の前には多くの豪華絢爛な馬車が止められている。夜会に招待されているのは魔法家系の人間だけのはずだが、ペガサスの馬車で来ているのはヴァイオレットとイヴァンだけのようで、王宮の中へと入っていく着飾った人々が空を見ているのがわかる。

馬車はゆっくりと地面に降り立ち、イヴァンが扉を開けた。そして、ヴァイオレットに手が差し伸べられる。

「ヴァイオレット、行こうか」

「はい。ありがとうございます」

ヴァイオレットは自分よりも大きなその手を緊張を覚えながら取り、馬車から降りる。刹那、ヴァイオレットとイヴァンに多くの視線が集まった。夜会に招待された魔法家系の人たちは、ヒソヒソと何かを話している。
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