人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
「こちらこそ、聴いていただいてありがとうございます。とても楽しかったです」

夜会が開かれるホールの前で二人はもう一度立ち止まり、お礼を言い合う。ヴァイオレットはゆっくりと息を吐いた。まだ心の中に緊張はある。知らない世界に触れることには勇気がいる。

(大丈夫よ。イヴァン様がいるもの)

家庭教師の指導を受けていた頃は、こうして前向きに考えることはできなかった。何をしても「違います!」と叱られてばかりだったからだ。そのため、胸を張って歩くことができなかった。しかし、今は違う。

「行きましょう、イヴァン様」

ヴァイオレットとイヴァンは、ホールの中へと一歩を踏み出した。



夜会が開かれるホールには巨大なシャンデリアがぶら下がり、薔薇の花が飾られ、王宮に仕える一流料理人たちが作った色彩豊かな料理やスイーツがビュッフェ形式で並べられ、ドレスや燕尾服で着飾った人々が楽しそうに談笑している。

(これが夜会……)

自分が触れることは永遠にないと思っていたこの場に、ヴァイオレットは多くの視線を感じながら立っている。イヴァンに「大丈夫かい?」と声をかけられ、ヴァイオレットはすぐに「緊張しています」と答えた。すぐに「僕も緊張してる」と返ってくる。二人で顔を見合わせて笑っていると、「おや、ブルースター様ではありませんか」と声をかけられた。
< 133 / 224 >

この作品をシェア

pagetop