人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜

イヴァンが自身の名を口にすると、イザベルは動揺し始めた。口を手で覆い、「えっ？どうして？」と呟いている。人狼は常に獣と変わらない姿をしていると思っていたためだろう。

「人狼は満月の夜にしか変身しませんよ。そのことをヴァイオレットは最初から知っていましたがね」

イヴァンはそう言い、ヴァイオレットの肩を抱いたまま歩き出す。ヴァイオレットがチラリと見たイザベルは、どこか悔しげな顔をしていた。



夜会が開かれているホールへ戻る間、ヴァイオレットとイヴァンの間に会話はなかった。互いの足音が静寂に包まれていた廊下に響き渡る。

チラリとヴァイオレットはイヴァンの顔を見上げた。イヴァンの顔には表情がなく、一体彼の内側に今どのような感情が秘められているのかは読み取れない。

（イヴァン様、怒っているのかしら？）

ヴァイオレットの胸の中は騒めき、不安に満ちていく。魔法が使えないというのに魔法家系の人間に立ち向かったのだ。無鉄砲だと呆れられているかもしれない。

「イヴァン様，申し訳ありませんでした」

ヴァイオレットは足を止め、イヴァンに頭を下げる。イヴァンは「どうして君が謝るんだ？」と驚いていた。その返答にヴァイオレットも驚いてしまう。

「その……私が無鉄砲だったので先ほどから無言なのかと……」

「そうじゃない。そうじゃないんだ。僕はただ、あの女がヴァイオレットに酷いことをした人間なんだと思ったら、あの女に対する怒りが止められなくて……。その怒りを君にぶつけてしまいそうだったから、黙ってしまっていたんだ。不安にさせてごめん」