人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
そう思うと、胸が痛んでいく。しかしそれでもいいとヴァイオレットは思えてしまった。ただイヴァンの隣で穏やかな日々を過ごせたのなら、「愛してる」とお互いに言う日が来なくてもいいのである。

「だからこそ、イザベル様には渡せない!」

勝負のことを思い出し、ヴァイオレットは拳を握り締める。イヴァンのことを「人狼」と軽々しく口にできる人に渡せない、そうヴァイオレットは決意した。



翌日、と言ってもまだ夜が明ける前、ヴァイオレットの姿は書庫ーーーではなく厨房にあった。イヴァンの屋敷の厨房はランカスター家のものより小さいものの、様々な調理器具や調味料が揃っている。

そんな中、ヴァイオレットはドレスではなく数ヶ月ぶりにメイド服に袖を通して立っていた。厨房にヴァイオレットは書庫から持ってきた本を置き、ページを開ける。ヴァイオレットが持ってきたのは料理の本だ。

「うまく作れるかしら……」

料理本のページを開き、自分が作れそうなものをヴァイオレットは探す。異国ではどのような料理が食べられているのか、シャムロック国の伝統的な料理などは本で見たことはあるものの、ヴァイオレットは包丁を握ったことは一度もない。

幼い頃は貧しい暮らしのため、お腹いっぱいになるまで食べたことがなかった。ランカスターの屋敷では料理を作るのは一流のシェフの仕事で、ヴァイオレットやミモザはシェフが用意してくれた料理を食べていた。イヴァンの屋敷に来てからも、料理を作ってくれるのはリオンかアイリスである。
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