人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
「本の通りにならないわ。どうして?」

ヴァイオレットが読んだ本の主人公たちは、魔法のように料理をあっという間に作り上げていた。食材を切り、焼き、時には煮たり和えたり、味付けをして、おいしい料理をテーブルの上に運び、家族や友達、恋人とテーブルを囲んで食べている。しかし、ヴァイオレットは食材を切るということすらまともにできていない。

「料理ってこんなにも難しいのね……」

いつも料理を用意してくれるアイリスやリオンの顔を思い浮かべ、ヴァイオレットは呟く。大きさがバラバラになりながらも何とかベーコンを切り終え、次は半熟卵を作る準備を始める。

鍋に水を入れて、沸騰させるのを待つ。待っている間、ヴァイオレットは書庫から持ってきた一冊の本を開く。沸騰するまで続きを読もうと思い、持って来たのだ。

栞が挟まれたページを開き、ヴァイオレットはあっという間に夢の溢れる物語の世界へと入り込んでいく。夢中になっている彼女を現実に引き戻したのは、「ヴァイオレット!!」という二つの大声だった。

ヴァイオレットが驚いて顔を上げると、隣には着替えを済ませたリオンとアイリスがいた。リオンが数分前には沸騰していたであろう鍋の火を止めて、「火を使っている時に目を離すなんて危ないよ!」と怒る。
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