人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜

イヴァンがそう微笑んで言った刹那、ヴァイオレットの心の中に温かい感情が洪水のように押し寄せる。緊張のせいでブワリと吹き出した汗を拭い、ヴァイオレットは「よかったです！」と微笑んだ。

「さあさあ、ヴァイオレット様も突っ立ってないで食べましょう」

リオンがそう促し、ヴァイオレットも椅子に座る。そしてリオンとアイリスも座り、食べ始めた。通常の貴族の屋敷では、使用人が主人たちと共にテーブルを囲んで食べるなどあり得ない。しかし、このブルースターの屋敷では使用人も食事の時間を共にするのが当たり前だ。

「このチキン、とってもおいしくできてます！」とアイリスが笑う。

「シーザーサラダ、早起きして作った甲斐がありましたね！すごくおいしい！」とヴァイオレットをチラリと見ながらリオンが言う。

二人から褒められ、ヴァイオレットは「作れたのは二人のおかげだから！」と大きめの声で言い、スープを口にした。

まだヴァイオレットの胸の中は緊張が残っており、鼓動がどこかうるさい。しかしそれ以上に嬉しさがあった。ヴァイオレットは初めて、「おいしい」と人から言われる喜びを知ったのだ。今まではその感情を小説の中でしか知らなかった。

（知っているようで知らないことはたくさんあるのね。物語と現実では違う。私、私は、まだ知らない現実の世界も知りたい！）