人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
扉の方を見ながらヴァイオレットが訊ねると、アイリスは申し訳なさそうに言う。

「今日は満月だから……」

「そっか。満月……」

人狼であるイヴァンは満月の今日、夜になると姿が人ではなくなる。満月が来るその日は朝から体調が悪いため、イヴァンの自室には近付かないことがこの屋敷の唯一のルールだ。

(ずっと寝てばかりだったから、満月のことを忘れていたわ。何だか寂しい……)

熱を測りながらヴァイオレットがそんなことを考えていると、「はい」とアイリスがヴァイオレットの前に何かを差し出す。庭に咲いている薔薇の花だった。フルーツのような甘い香りがするアプリコット色の美しい薔薇だ。

「綺麗……」

「イヴァン様からだよ。今日は来られなくてごめんって伝えてって言われた。愛されてるね〜」

「そ、そういうのじゃないわ!」

ニヤニヤするアイリスに対し、ヴァイオレットは慌てて否定する。胸は高鳴ってうるさいくらいだが、ヴァイオレットは必死で「自惚れるな」と言い聞かせた。
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