人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
今日一日会うことができなかった人の名をヴァイオレットは呼ぶ。庭を歩いていた獣は足を止め、ゆっくりとヴァイオレットの方を向いた。

全身が灰色の毛で覆われたその獣は、体は人のような形をしていたが、頭と手足は鋭い爪と牙を持った狼の姿をしていた。人狼である。

「イヴァン様、お会いできて嬉しいです」

ヴァイオレットは笑みを浮かべ、イヴァンに近付く。イヴァンの口からは不安げな声が漏れた。変身している間は人の言葉を話すことができない。しかし、ヴァイオレットはイヴァンに会えたことがただ嬉しく、彼女の中では意思疎通ができないことなどどうでもよかった。

イヴァンは一歩大きく下がった後、逃げ出そうとする。ヴァイオレットは追いかけようとしたものの、何かに躓いて転んでしまった。

「きゃあッ!」

ヴァイオレットが声を出すと、逃げようとしていたイヴァンが駆け寄って来る。鋭い爪でヴァイオレットを傷付けないようにしながら慎重に彼女の体に触れ、立ち上がらせた。

「イヴァン様、ありがとうございます」

鈍い痛みが足に走っているものの、怪我はしていない。ヴァイオレットは微笑み、イヴァンの手に優しく触れた。変身する前もイヴァンの手は大きいのだが、変身するとさらに一回りほど大きくなっている。
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