人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
(ランカスター家の屋敷で見た書物に書いてあった通りね)

見た目より柔らかな毛で覆われた手にヴァイオレットが触れていると、イヴァンが低い声を出す。その目はどこか心配そうにヴァイオレットを見ており、彼が何を言いたいのかヴァイオレットは察した。

「もう外に出ても大丈夫ですよ。夕方には熱が下がりましたから」

眠れないので少しお話ししませんか、そう言いヴァイオレットは庭にあるベンチに腰掛け、イヴァンも隣に座る。月が二人を優しく照らした。ヴァイオレットはチラリと月を見た後、イヴァンに言う。

「イヴァン様、月に関する話を読みました。東洋に古くから伝わるお話です」

竹から生まれた美しい姫君の悲しくも美しい物語をヴァイオレットは話す。イヴァンは黙って話を聞いていたが、その瞳は優しく、話を楽しんでくれていることがわかる。

「明日からまた、シャーデンフロイデの調査をしようと思います。ただ、わからないことばかりが多すぎて……」

昔話を終えた後、ヴァイオレットの口から出たのはシャーデンフロイデのことだった。考えれば考えるほど、シャーデンフロイデのことはわからなくなっていく。

「イザベル様は「女性の声なんて知らない」と言っているんです。でも、王都の人たちやウィロウ地方の人たちはしっかりと声を聞いている。どういうことなんでしょうか?」
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