人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜

ミモザと抱き締めあった後、ヴァイオレットは馬車に乗り込む。馬車はゆっくりとランカスター家の屋敷を離れ、ヴァイオレットはずっと走り去る馬車を見るミモザを見て、目の前がぼやけてしまう。

偽物の花嫁に幸せなどきっとないだろう。だが、これは自分に課せられた運命だ。それから逃げることはできない。

（私は、イザベル・ランカスター）

何度もかつての主人だった人の名前を心の中で呟き、ヴァイオレットは外の景色を見る。隣国アルストロメリアまでは半日、そこからウィロウ地方までは一日近くかかる。

長い旅が始まった。



アルストロメリアに馬車が入った際、美しい建物や多くの人で賑わう市場が多く見えたのだが、馬車が南に進むにつれて景色は木々など自然が多くなり、読んだことのある本の内容と同じだとヴァイオレットは景色をジッと見る。

ウィロウ地方の家は首都のように密集しているわけではなく、まばらである。そのためどこか静かで賑やかな街しか知らないヴァイオレットは、まるで異世界に迷い込んでしまったように思えた。

「ここがウィロウ地方……」

ヴァイオレットが景色をジッと見ていると、大きな屋敷の前で馬車が止まる。そして御者がドアを開けた。

「イザベル様、到着しました」