人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
ランカスター家の屋敷では、よくお茶会が開催されていた。お茶会は紳士淑女のマナーを学ぶ場でもあると共に、互いの家同士の交流の場ともなっている。名家との強い繋がりを得るために、魔法家系のお茶会ではみんな張り切っている。

繋がりを得るためには、お茶会で話をして盛り上げなければならない。楽しく、お茶会にいる全ての人の心に残る話をすることが義務のようなものだ。そのため、ヴァイオレットが中庭の近くを通りかかると、いつもお茶会では面白そうな話と笑い声が聞こえており、ヴァイオレットはその光景に少し憧れを抱いていたのだがーーー。

(こんな空気の重いお茶会、ランカスター家の中庭で目にしたことがないわ。私は魔法家系のお嬢様ではないから、最近起きた面白い話なんてないし……。どうしましょう)

相変わらず三人はどこか暗い。メイドとしてランカスター家で生きてきた話をヴァイオレットがすれば、この場は空気が重くなるどころか凍り付いてしまうだろう。困り果てたヴァイオレットだったが、自身の目を薔薇が映る。その時、少し前に読んだ物語を思い出した。

「昔々あるところに、一人の青年がおりました」

ヴァイオレットが物語を話し始めると、暗い顔をしていたイヴァンたちは何が始まったのかとヴァイオレットの方を見る。空気が少しだけ変わった。ヴァイオレットは話し続ける。
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