人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
「ヴァイオレット・カッシングと申します。非魔法家系で、ランカスター家でメイドとして働いておりました」

ヴァイオレットが自身の本当の名前を口にすると、イヴァンは優しく微笑む。そしてその唇が動いた。

「ヴァイオレット……。素敵だね。君に相応わしい名前だ」

「あ、ありがとうございます……」

ヴァイオレットという名前を褒めてくれたのは、病気で亡くなった母とミモザだけだった。チャールズたちはそもそも使用人の名前をほとんど覚えておらず、名前を口にすると、「そんな綺麗な名前、あんたみたいな人間につけるなんて!」と馬鹿にされることも珍しくなかった。

(何かしら、この気持ち)

ヴァイオレットの胸が温かくなっていく。それはまるで、陽だまりの中に入り込んだ時のようだ。ヴァイオレットが感じてきた「嬉しさ」とはまた違った感情である。

(新しく本を買った時よりも、今、心が弾んでいる?)

たくさんの本を読み、同世代の人よりも様々な分野の知識をヴァイオレットは持っている。だが、人の感情という複雑なものはわからないことが多い。

(この気持ちは何と表したらいいのかしら?)
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