人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
ヴァイオレットは温かな胸に手を当て、読んだ本を思い返しながらこの感情の答えを探す。すると、「ヴァイオレット」と名前を呼ばれた。考えるのをやめ、ヴァイオレットは「はい」と返事をする。

「ヴァイオレット、お願いがある。私と結婚して妻になってほしい。君はこんな歳の離れた男なんて嫌かもしれないが、君だけなんだ。この屋敷に来てくれたのは」

「私は、イヴァン様の妻になるよう命じられてここに来ました。そのことに異論は一切ございません。ですが、屋敷に来てくれたというのは一体どういうことでしょうか?」

真剣な顔で求婚するイヴァンに対し、ヴァイオレットは首を傾げながら訊ねる。イヴァンは恥ずかしそうに俯き、「実は……」と話し始める。

「私は人狼になった時から、人と関わらないように生きてきた。だから、結婚などもしないと決めていたんだ。でも良くしてもらっている王室の大臣たちは、私がいい歳をして独身なのは世間体が悪いと思っているみたいで、魔法家系の独身のご令嬢に勝手に婚姻話を持ち掛けてね。もしも君が帰ってしまったら、また知らない間に婚姻話を進められてしまうんじゃないかと怖いんだ。こんな田舎での生活は退屈かもしれないけど」

人狼という自分の存在を恐れられてしまうこと、狼の姿になって妻となった人を傷付けること、きっとそのどちらも彼にとっては世界で一番怖いことなのだ。ヴァイオレットはドレスのスカートを握り締め、「イヴァン様」と声をかける。
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