人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
「先ほども言った通り、私はイヴァン様に嫁ぐためにここに来ました。シャムロック国へは戻りません。戻っても、孤児である私には帰る場所がありませんから」

ヴァイオレットはそう微笑み、言った。嫌でも覚悟をしなくてはならないのだ。仮にここから逃げ出しても、行く宛などない。しかし今、ヴァイオレットはシャムロック国に戻りたいとは不思議と思っていなかった。

「ありがとう、ヴァイオレット」

イヴァンは頰を赤く染め、俯きがちに言う。その瞳が一瞬濡れているように見えたのだが、ヴァイオレットはそのことには触れず、ただ微笑んでいた。



お茶会が終わった後、ヴァイオレットはアイリスに案内されて、自分に与えられた部屋へと向かっていた。

「アイリス、ヴァイオレット様をお部屋に案内してあげて。俺が片付けをしておくから」

リオンがそう言ったため、ヴァイオレットはアイリスに屋敷の中を案内されつつ、自分の部屋へと向かっている。自分一人の自室を与えられるのは初めてで、ヴァイオレットは嬉しさで頰が緩んでいた。

「ここがバスルームで、その隣にあるのがトイレです」

アイリスの口調は変わらず淡々としていたものの、その表情はどこか緊張しているように見える。ヴァイオレットは気になったことがあり、訊ねた。

「アイリスさん、この屋敷に書庫はありますか?」
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