人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
「そうですか?」

そんな話をしながら、ヴァイオレットとアイリスは大聖堂に向かって歩く。大聖堂の大きな扉の前に立つと、扉の向こうから少しだが話す声が聞こえてくる。

(私、本当に結婚するのね)

小説で読んだような情熱的な愛や、誰もが憧れるロマンス、ときめくような恋はここにはない。だが、これはヴァイオレットの運命なのだ。

扉が開く。大聖堂の長いバージンロードの先にある祭壇の前に、紺色のフロックコートを着たイヴァンが少し緊張した様子で立っており、その後ろには神父が微笑みながらヴァイオレットが祭壇の前に立つのを待っている。

ヴァイオレットはゆっくりと歩き出す。参列席をチラリと見ると、リオンとアイリス、そして数人のウィロウ地方に住んでいる人の姿しかない。ここに立っているのがイザベルならば、この結婚式に発狂していただろう。

(まあ、人が少ない方が私もいいわ。ジロジロ見られるのは慣れていないもの)

一歩ずつヴァイオレットは進んでいく。周りからの視線は一体どのような感情を秘めているものか、緊張のせいで全くわからない。

祭壇の前に来ると、ヴァイオレットの手をイヴァンが取る。ヴァイオレットのものより一回りほど大きなその手は、まるで割れ物に触れるかのように優しかった。
< 43 / 224 >

この作品をシェア

pagetop