人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
「部屋まで送って行くよ」

そう言ったイヴァンの顔は、どこか困っているようにヴァイオレットには見えた。その表情に、ヴァイオレットの胸は締め付けられるような痛みを覚えていく。しかし、それを表情に出すことは魔法家系では許されない。

(私のしたことは、イヴァン様にとって迷惑なのですか?)

心の中でヴァイオレットがそう訊ねても、答えがイヴァンから返ってくることは当然ない。ただ「はい」と頷き、部屋から出るしかない。

「グアン!」

イヴァンは杖を取り出し、呪文を唱える。すると杖の先に光が灯り、夜の暗い廊下をスムーズに歩くことができるようになった。

並んで歩く二人の間には、会話は一つもなかった。ヴァイオレットはチラリとイヴァンの方を見る。淡い光に照らされたイヴァンの顔に表情はなく、何を考えているのかはわからない。それが尚更、ヴァイオレットの心に傷をつける。

(私、イヴァン様に嫌われてしまったの?)

出会って数日、しかもヴァイオレットは身代わりで彼に嫁いだ身であり、愛があるわけではない。しかし、何故かヴァイオレットは彼に嫌われたと感じると胸が苦しくなっていく。
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