人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
ヴァイオレットは暗い声で謝った後、部屋の扉を開けて中へと入る。イヴァンの顔を見ることはできなかった。

「ッ!」

扉を閉めた刹那、ヴァイオレットの目から涙が溢れていく。何故自分が泣いているのか?何故こんなにも悲しいのか?何故胸がこんなにも苦しいのか?何もかもがわからない。

ただ、涙だけは止まらなかった。



ヴァイオレットを部屋まで送り届けた後、イヴァンは息を吐いて自室まで戻る。無表情のまま歩くイヴァンの頭の中には、ベッドで押し倒したヴァイオレットの顔があった。

(どうしてこんなにも頭から離れないんだ?)

恐怖や不安を必死で押し殺そうとし、イヴァンの夜の相手を必死に務めようとしたヴァイオレットの顔が脳裏から離れず、イヴァンの頰が赤く染まる。

(何なんだ、これは……。この気持ちはまるで、初めて好きな人とハグをした学生のようじゃないか……。僕は人を好きになってはいけないんだ。絶対に)

イヴァンは強く自分に言い聞かせる。先天的な人狼でない場合は、子どもに人狼が遺伝することはない。しかし、世間では未だに人狼に対する偏見は強いのだ。

(もしも子どもを作ったら、ヴァイオレットや子どもまで化け物扱いされてしまう)
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