人狼様に嫁ぎます〜シンデレラ・ウェディング〜
イヴァンはそう言い、まだ話の途中だというのに二人に背を向けて自室へと入っていく。リオンとアイリスは顔を見合わせた後、イヴァンの背中を見つめる。

「イヴァン様、おやすみなさいませ」

リオンとアイリスはそう言い、頭を下げる。イヴァンも「おやすみ」と返し、自室の中へと消えていった。

扉を閉めた途端、イヴァンの顔が赤く染まっていく。顔中に集まった熱に気付き、イヴァンは「困ったな」と呟いた。



ヴァイオレットがイヴァンの元に嫁いで、約一ヶ月が経った。ヴァイオレットはイヴァンと体を重ねることはおろか、キスやハグすらしたことがない。共に屋敷の外を散歩したことは何度かあるものの、新婚夫婦のような甘い空気は当然なく、屋敷の周辺に住んでいる人から「本当に結婚しているの?」と噂されているほどだ。

「満月の夜には自室には近付かないでほしい」

イヴァンは結婚した翌日、朝食を一緒に食べている時にそう言ったものの、それ以外には特にこの屋敷でのルールはなく、ヴァイオレットは毎日書庫に篭り、大好きな読書を楽しんで過ごしている。

(偽の夫婦だから、これでいいのよね)

家庭教師にあれだけ教えられた夜の営みをしないのはどうなのかと結婚生活が始まった当初は思ったものの、イヴァンのあの無表情を見るのが怖く、ヴァイオレットは何も言わずに今日も書庫で過ごしている。ランカスター家の書庫よりもこの屋敷の書庫は大きく、ヴァイオレットにとっては一番好きな場所だ。
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