両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
「うん。本当に小さくて、助からないんじゃないかって不安だった」
 小さな子猫を見つけどうしていいのかわからずうろたえていた私を連れて、翔真さんが動物病院を探してくれた。そんな彼がとても頼もしく見えたのを覚えてる。
「そうだ。ライター持ってきたけど、悠希ってタバコ吸ったっけ?」
 タバコを吸っている姿を見た覚えはないけど……と不思議に思いながらライターを手渡す。
「吸わないよ。あの場所から抜け出すための言い訳」
「なにそれ、じゃあライターなんて必要ないじゃない」
「暇だから彩菜に話し相手になってもらおうと思って」
「まったく勝手なんだから」とため息をつく。
「だって居心地悪かったじゃん。あのままあそこにいたら、強引に見合いさせられそうだし」
 悠希はちょっと投げやりに言いながら庭を眺めた。そんな彼に、「大丈夫だよ」と言う。
「翔真さんがちゃんとフォローしてくれてたから」
「兄貴が?」
「周りが急かさなくても、悠希なら自分の将来は自分で決めるって言ってた」
 翔真さんの言葉を教えられた悠希は、ベンチの手すりに頬杖をついて苦笑いを浮かべる。
「ほんと兄貴は俺をかいかぶりすぎ」
 その横顔は笑っているけれど、どこか歯がゆそうに見えた。
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