両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 私の名前を呼びこちらにやってくる。会場に私がいないのに気付いて捜しに来てくれたんだろうか。翔真さんの表情には焦りが浮かんでいた。
「残念。邪魔が入ったな。じゃあ俺は行くわ」
 翔真さんに気付いた男性は、そう言い残し足早に立ち去る。
 私のところまでやってきた翔真さんは、去っていく彼のうしろ姿を険しい表情で見ていた。
「彩菜。大丈夫か?」
「はい……。少し話しかけられただけなので」
 私の答えを聞いて、翔真さんはほっとしたように息を吐き出す。
「あの、翔真さんはさっきの方とお知り合いなんですか?」
「あぁ。学生時代の同級生だよ」
「そうなんですか……」
 ただの同級生の割には、彼は翔真さんに敵対心を抱いているようだった。それに、彼から言われた言葉が胸にひっかかる。
 隠し事っていったいなんだろう。
 私の沈んだ表情に気付いた翔真さんが、眉をよせこちらを見つめた。
「もしかして、あいつになにか言われた?」
「い、いえ。なにも……」
 反射的に首を横に振る。
 さっきの男性から言われた言葉が気になってしょうがなかった。だけど、それを直接翔真さんにぶつけたら彼を傷つけてしまうような気がした。
 翔真さんは私の顔をじっと見つめてから息を吐き出す。
「戻ろうか」
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