両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
不穏な予感

6 不穏な予感

 翌日。翔真さんは早い時間に家を出て空港へと向かった。
 私はいつもどおり出社し働いて、午後から記念誌に掲載する原稿依頼のために下請け企業のひとつである飯島製作所へと向かう。
 この飯島製作所は従業員五十人ほどの金型を作っている会社だ。一台の自動車には約三万個もの部品が使われ、そのほとんどが金型を用いて作られる。
 世界有数の自動車メーカーである吉永自動車は、こういった中小企業の協力のおかげで成り立っているといっていい。
 その感謝の気持ちを形にしたいという社長の意向で、今回の創業五十周年の記念誌には協力企業の功績についても掲載する予定だ。
 一カ月ほど前に記念誌制作への協力をお願いしたところ、飯島社長からは『よろこんで』と快いお返事をいただけた。
 けれど実際に担当してくれる総務の方は、細かな難癖をつけるばかりでまったく作業が進まなかった。
 まるでわざと妨害しているかのような対応に困り、メールや電話のやりとりではなく直接話したほうがいいだろうと会社に足を運んだのだ。
 吉永自動車として日ごろからの感謝の気持ちを伝えて記念誌制作の意図を理解してもらえればいいんだけど……。
 応接室に通され担当者を待つ。しばらくしてドアがノックされた。
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