両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 悠希は、翔真さんにはずっと好きだった人がいたと言っていた。その人と結婚するために、一度だけわがままを言ったと……。
 翔真さんが婚外子だったとしたら、育ててくれたお義母様に大きな恩と罪悪感を抱いていたはずだ。
 そんなお義母様に政略結婚をすすめられたとしたら、翔真さんはどんなに好きな人がいたとしても断れるわけがない。
 重い足取りで歩きながら、空を見上げた。青から赤、そして濃紺へとゆっくりと色を変えていく空に、ひとつだけぽつんと星が光っていた。
 空に輝く一番星。こんな気持ちのときでさえ空も星も綺麗だと思えて足を止めた。見上げているうちに、涙が込み上げてくる。
 小さなころから翔真さんが好きだった。ずっと彼に憧れてきた。夫婦になれて一緒に暮らせて本当に幸せだった。そう実感する。
 涙をこらえながら立ち尽くしているとポケットの中に入れていたスマホが震えた。取り出して画面を見る。翔真さんからの着信だった。
「……もしもし」
『彩菜?』
 電話の向こうから、大好きな翔真さんの声が聞こえてきた。
『今、大丈夫?』
 私はゆっくりと息を吐き出し「はい」とうなずく。
「大丈夫ですけど、なにかありましたか?」
 札幌にいる翔真さんは、ちょうどモーターショーが終わり一段落した時間だろう。
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