両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
『ただ、彩菜の声が聞きたくなったんだ』
 その優しい言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。
 どうして私がこんな気持ちでいるときに、電話をかけてきてくれたんだろう。タイミングがよすぎるよ……。と心の中でつぶやく。
『声に元気がないけど、なにかあった?』
 たぶん神様が言ってるんだ。逃げてばかりいないで、ちゃんと話しなさいって。目をそらさずに、事実を受け止めなさいって。
 私はゆっくりと息を吐き出し、覚悟を決めて口を開いた。
「今日、仕事で飯島製作所さんに行って来たんです」
 私の言葉を聞いて、翔真さんが小さく息をのんだのがわかった。
「翔真さんの同級生の、飯島さんと話をしました」
『――飯島に、なにか言われた?』
「はい」
 素直にうなずくと、電話の向こうの翔真さんがため息をつく。
「飯島さんから、翔真さんの出生について聞きました」
『そうか』
「飯島さんの話は、本当なんですか?」
 私の問いかけに、翔真さんは低い声で『本当だよ』と静かに答える。
「本当って……。どこからどこまでが……?」
『飯島からなにを聞いたのかはわからないけど、俺が父の不倫の末にできた子どもで、その母親に捨てられ吉永家で育てられたということは事実だ』
「そんな……」
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