両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 お義母様に不思議そうに問われ、「電源を切っているんです」と説明する。
「なるほど。それで余計に焦っているんだな。翔真がこんなに必死になるなんてめずらしい」
 鳴り続ける着信音を聞きながらそう言ったお義父様は、なぜか楽し気だった。くすくすと肩を揺らして笑う。
「そんな、笑っている場合じゃ……」
 どうしよう。こんなに電話をかけてくるなんて、翔真さんはものすごく怒っているのでは。不安が押し寄せ手のひらに汗が浮かぶ。
「彩菜ちゃん。とりあえず、電話に出るわね」
 そう確認されうなずいた。お義母様がスマホをタップすると同時に、翔真さんの声が響いた。
 翔真さんとのやりとりが聞こえるように、スピーカーにしてくれたようだ。
『彩菜はそちらにいますか!』
 翔真さんらしくない、切羽詰まった声だった。
 しかも挨拶も前置きもなしに聞いてくるなんて。普段の礼儀正しい翔真さんとは印象が違いすぎて目を丸くする。
「彩菜ちゃんなら……」
 翔真さんの勢いに驚いた表情を浮かべながら、お義母様がこちらを見る。
 来ていると言っていいのか確認してくれたんだろう。私は慌てて首を横に振った。
「……いいえ、うちには来ていないわよ」
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