両片想い政略結婚～執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない～

　責任感が強くていつも冷静な翔真さんが、いくら私が離婚を切り出したからとはいえ仕事を投げ出したなんて。
　私のつぶやきが届いたのか、電話の向こうの翔真さんが息を吐き出すのがわかった。
『彩菜』
　世界で一番大好きな、優しい声で私の名前を呼んだ。
『そこにいるんだな』
　問いかけになんて答えればいいのかわからず、唇を噛んで黙り込む。
『ずっと騙していてごめん。どんなに責められても仕方ないし、顔も見たくないと思われて当然だ』
　必死に訴えかけるような、真剣な声だった。
　顔も見たくないなんて思うはずがない。翔真さんが違う女性を愛していると知った今でも、好きで好きで仕方ないのに。
　必死に涙をこらえていたけれど、喉がつまり嗚咽がもれた。
「翔真さん……」
　震える声で名前を呼ぶと、電話の向こうの翔真さんがゆっくりと息を吐き出す気配がした。
『彩菜、本当に悪かった。こんな卑怯な手を使って結婚したと知られたら、幻滅されるとわかってた。憎まれても仕方ないと思ってた。それでもどうしようもないくらい、彩菜が欲しかったんだ』
　彼から言われた言葉の意味がわからず、一瞬頭が真っ白になる。
「え……。私が欲しかったって、どういう意味ですか？」