両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 彼女の荷物を持ち、エレベーターに乗る。
 鍵を開けて玄関に入ると、廊下には俺が出張に持って行ったバッグが放り出されていた。
 しかも、彩菜がいないか部屋中を捜し回ったせいで、リビングや寝室のドアはすべて開いたままだった。
 乱れた部屋を見て、彩菜が驚いたように目を丸くする。
「悪い。札幌から帰って来て、彩菜がいないことに取り乱した」
「いえ。出張だったのに、私のせいで仕事を切り上げて札幌から帰って来てくれたんですよね。仕事関係の方にも迷惑をかけてしまって申し訳ないです」
 仕事の邪魔をしたと思っているんだろうか。眉を下げる彼女に「大丈夫だから」と言いリビングに移動する。
「ちゃんと話し合おう。彩菜に謝りたい」
 ソファに並んで座ると、彩菜が俺を見上げた。
「あの、翔真さんが私を好きだったって、どういうことですか? 私たちの結婚は、お互いの家の利害のための政略結婚だったはずなのに……」
 彩菜が疑問に思うのも無理はない。
 吉永家と藤沢家の結婚はあくまでお互いの利害のための政略結婚で、好意があるから一緒になったわけじゃない。そう思われるように俺が仕向けた。
 彼女を騙していた自分に罪悪感を覚えながら口を開く。
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