両片想い政略結婚~執着愛を秘めた御曹司は初恋令嬢を手放さない~
 だけど、必要なものは翔真さんが買ってくれるので、私がお金を使うタイミングはほとんどないし、あったとしても自分のお給料で十分まかなえる。
 だから結婚して半年経つけれど、渡された翔真さんのカードを使ったことは一度もなかった。
「遠慮しているわけではないんですけど」
 説明しようと口を開いた私を、翔真さんがじっと見つめた。その不満そうな表情に息をのむ。
 いつも穏やかな彼が見せたちょっと不機嫌な表情がかっこよすぎるんですけど!と叫びそうになる。
 今心拍数を図ったら、とんでもないことになっていると思う。
「本当に遠慮していないなら、ほしいものは我慢せず買うように」
「でも、翔真さんのお金を私なんかが勝手に使うわけには……」
 申し訳なくてそう言うと、彼は長身をかがめた。幼い子どもに言い聞かせるように、私の瞳をのぞき込む。
「私なんか、じゃないだろ。彩菜は俺の大切な妻なんだから」
 俺の大切な妻、という言葉を聞いて頭に血が上った。
 私たちは政略結婚で、翔真さんは私に恋愛感情を抱いていないってことはわかってる。だけど、大切な妻と言ってもらえるなんて、建前でも嘘でもうれしい……っ!
「わかった?」
 彼に見つめられた私は、『翔真さん大好き!』と叫び出したくなる気持ちを必死に抑えこくこくと首を縦に振る。
 翔真さんは表情を緩め、私の頭を優しくなでてくれた。
「着替えてくるよ」
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